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「…睦人?おい、大丈夫か!」 しかし、聞き慣れた声が空間に反響し、すぐ傍にいい香りが広がった。 大きな手のひらが背中に周り、心配そうに支えてくれる。 「………佳威……」 この声、この香り。視界に入り込む、暗めのアッシュグレー。 間違いなく佳威だった。 「どうしたんだよ…立てるか?」 「…佳威こそ、どうして、ここに」 「俺もトイレ。…無理すんなって言っただろ」 「ごめん…」 佳威は座り込む俺の傍で少し険しい顔をしていた。 トイレだなんてきっと嘘だ。多分佳威は心配して見に来てくれたんだと思う。 それが申し訳ないと思う反面、胸が熱くなる。 「なんか…風邪っぽくて…」 「確かに体が熱いな。気持ち悪いのか?」 「んん、ん…気持ち悪い、というか…」 「吐きそうじゃねえなら、とりあえず戻って休むぞ」 「あっ、待って…!!」 背中を支えられ起き上がらせてくれようとする佳威の腕をギュッと掴んだ。 今、立つと非常に不味い。 バレる。 確実に下半身がバレてしまう。 「どうした…?」 さらにやばいのは友人にバレるという不味い状況だというのに、俺の股間は熱を増すばかりだということだ。 触れられている背中からゾクゾクと鳥肌が立つ。 気持ち悪い、というよりどちらかというと気持ちいい。 もっと違うところを触って欲しくなる。 無意識に考えてしまった内容に、俺は泣きたくなった。 なんで…? なんでこんな変なこと考えてるんだ。 意味が分からない。 友達相手に…――最低だろ。 「睦人…………」 佳威の腕を掴んだまま固まってしまった俺に、佳威がゆっくりと名前を呼んだ。 「お前…なんで…、…なんでお前からΩのフェロモンを感じるんだよ…?」 「!!!」 困惑したような問い掛けに、体が分かりやすく震えてしまった。パッと顔を上げると、至近距離で佳威と目が合う。少し垂れ気味の形のよい二重の瞳が真っ直ぐに俺を見つめていた。 「……え………?」 「お前、ほんとに…βなのか………?」 ………ザァァアアァァ……アアア…… 佳威の発言と被るように、頭上から雨の降る音が聞こえてきた。 ついに雨が降り出したようで、かなりの雨量を感じる音が煩いくらいにトイレの屋根を打つ。 ――ラッキーだと思った。 俺は咄嗟に、この雨に濡れればフェロモンが消える、そう考えたのだ。 どうしてΩのフェロモンだと分かるくらいにフェロモンが強くなっているのか、 どうしてそれを佳威が感じ取れたのか。 考えなければならないことは山ほどあったはずなのに、朦朧とし始めた頭ではとにかくフェロモンを消す、ということしか考えつかなった。

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