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第8話

次に意識がハッキリしたのは朝だった。 見慣れない部屋の見慣れないベッドの上で俺は布団を掛けられて寝ていた。見慣れはしないが、見たことはある部屋だ。 ゆっくりと体を起こすとズキッと頭が痛む。 「痛っ…」 あまり体を動かしたくない気分だったが、喉の渇きを覚え、痛む頭を押さえながらベットから抜け出た。 布団をめくり自分の格好を見ると、体操服では無く幅の広いボーダーのTシャツに黒の短パンという格好に変わっている。自分で着替えた覚えはもちろん無いし、そもそも俺はこんな服持っていない。 「…ここって」 しかし、考えてもラチがあかないので、とりあえず考えるのは後にして周りを見渡した。 何もない部屋だ。 最低限の家具だけが置かれている。全くの生活感が無くもちろん人の気配も感じない。 しばらくして、ああそうかと気付いた。 ここは俺に与えられた学園の寮だ。 だが肝心の(ここ)に居る理由が分からない。記憶が曖昧でよく思い出せないのだ。断片的には分かるのだが明確な答えが出ない。 喉が渇いた。 それに、体も怠い。 備え付けの小さな冷蔵庫までのろのろ歩いていき、バコッと開けるが案の定中には何も入ってなかった。 なんならコンセントも入っていないので、稼働さえしていない。 「そりゃ、そうだよな…。ここなんも持ってきてないし」 先生から鍵を渡されケーイチと共に来てから、ここには一度も来ていない。もう少し何かを持ち込んで置けば良かったと今になって後悔してしまう。 ガックリと肩を落としていると突然すぐ横の玄関から物音が聞こえ、金属音と鍵を開ける音がした。 「え、…」 誰だ? ドアノブが回る。冷蔵庫を開けたまま固まっていると、扉からひょこっと顔を出したのは、 「……あれ?睦人起きてたの?おはよう」 背後に爽やかな風を感じる笑顔のケーイチだった。 いつもの制服姿では無く白シャツにチノパンというシンプルな私服だ。ケーイチの私服なんて初めて見るな、と新鮮な気持ちになった。清潔感溢れる白いシャツがよく似合っている。 そして両手には何かが乗ったトレーとビニール袋を下げているが、何を持って来たんだろう? ケーイチはよいしょ、と靴を脱ぐとそのまま部屋に入って来た。 「睦人…ふふ、冷蔵庫開けて何してるの?電源も入ってないのに」 口を開けたまま固まっていた俺だったが、ケーイチの言葉に我に帰ると慌てて冷蔵庫を閉めた。 「だ、だよな。俺もさっき思った」 地味に恥ずかしい。 別に痒くもないのに後ろ頭をかきながら笑ってごまかした。

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