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06
「ご馳走さまでした」と行儀良く両手を合わせた直後、タイミングよくケーイチの携帯が震え着信を知らせた。
「ん、ごめん。睦人出ていい?」
「どうぞどうぞ」
ケーイチは俺に断りを入れてから、ベランダに続く窓を開けて外に出て話し始めた。別にここで出てもいいのに、礼儀正しいやつだ。
せめて食べ終わった食器を洗おうとひとまとめにして、一度も使ったことのない流し台へ向かう。何も無いとはいえ、スポンジと洗剤は備え付けのようでササッと簡単に洗い終えて、水を拭こうと思ったが布巾が無いことに気付き、仕方なく水切りラックに掛けた。
「ここじゃなんもできないな…。なんか買ってくるか」
母親が何を勘違いしてるのか知らないが一週間帰ってくるなと言っているのだ。この際、寮生活を謳歌するのも手かも知れない。
学校に通うのも徒歩5分圏内だし、いつかは一人暮らしをしてみたかった。かと言って寮でずっと暮らしたいわけでもないので、この一週間をやり過ごせるくらいのものがあればいい。
以前佳威が、飯は出てくるし掃除も洗濯もおばちゃんがしてくれると言っていたので多分寮にも食堂があるのだろう。
せっかく無償で提供してくれてるんだし、利用しない手はない。
それにタイミング良く今日も明日も学校は土日で休みだ。一人で行ってもいいし、ケーイチが暇なら付き合って貰おう。
そんなことを考えていると、話が終わったのかケーイチがベランダから戻ってきた。
「あ!おかえりケーイチ!あのさ、今日って暇?なんか予定ある?」
「え?えーと…今日は特に、予定ないよ。どうしたの?」
「いやー、さすがにこの部屋なんもなさ過ぎてさ、歯ブラシとか洗顔とか必要最低限のものは買っとこうかなーて思うんだけど…」
「なるほど。いいよ、付き合う。ヒートの睦人を一人で外出すのも心配だし」
「はは、そんな大袈裟な」
「大真面目だけど」
「………」
前から何となく感じていたが、ケーイチはわりと過度に心配性な部分があるように思う。実際に迷惑掛けまくった事例のある俺が言うのもなんだが、今はきちんと抑制剤も飲んで抑えられているのでβとなんら変わりないのに。
まるで俺のことを自分の弟のように見ているんじゃないかと思う時があるし、誰よりも「大丈夫?」と声を掛けてくれてるのはケーイチだ。
まあ、ケーイチに弟がいるのかどうかは知らないけどね。
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