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「あわ、わ」 「川北とどっちがいい?なんて…あれはマジでヤバかった。さすが男心分かってるよなあ!」 「ひ、ひえ~!やめてくれ~~!」 両手で耳を塞いで顔が真っ赤になる俺はその場に座り込んでしまった。待ってこれなんて罰ゲーム? 耳を塞いだまま佳威を恐る恐る見上げると、ソファーに座ったままニカッと笑われた。 「お前ほんと揶揄(からか)い甲斐あるな」 きっちり塞げていなかったのか、笑みを含んだ声が聞こえてきてから揶揄れていた事に気付く。それがまた余計に恥ずかしいのなんのって! 「ひど!俺真剣で悩んでたのに!」 「悩むことなんてないだろ。ヒートだったんだし仕方ねえって」 座り込んだまま火照る顔で睨むと、佳威はソファーから立ち上がり俺の近くに両膝を立てたまま腰を下ろした。いわゆるヤンキー座りと言うやつだ。 「Ωがαに甘えんのは当たり前だ。そんなんでいちいち恥ずかしがってたら今後やってけねぇし、俺は気持ち悪いなんて思ってねえよから安心しろよ」 「でも…」 「ちょっと来い」 フォローの言葉になおも言い募ろうとした俺だったが、手招きされて自然な動作で佳威に抱き締められた。 いつもの肩を組んでくるような雰囲気と同じで、いやらしさも何もない。ただ少し違うのはいつもより優しく労わるような力加減が心地よく安心感さえ覚えることだろうか。 「…佳威?」 「…むしろ俺は嬉しいくらいだ。こんないい匂いするやつがβなわけねえってずっと思ってたし。睦人がΩだって分かって、俺は」 「……?」 俺は、の続きを言い淀む佳威。顔を離してじーと見つめると、佳威も同じようにこちらを近い距離で見つめてきた。 「睦人…、俺」 そっと名を呼ばれる。 俺を正面から見つめる真剣な目。 佳威の纏う香りに、落ち着いてきていた頬の火照りが戻ってくる気がした。

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