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ピンポーン
「あっ」
「あ?」
「ご、ごめん佳威。多分ケーイチだ!」
突然室内に響いた機械的な音に、俺は身を起こした。佳威もケーイチという名に反応したのか腕を離して同じように立ち上がる。
なんだか一瞬にして夢から目が覚めてしまった感覚だ。
「そういやあいつ居ねえなとは思ってたんだよ。どこ行ってたんだ?」
「俺の外出用のズボン取りに行ってくれてたんだ。ちょっと開けてくる」
バタバタと玄関に走ると、扉の向こうには思った通りケーイチが立っていた。
そして玄関に並んだ二つの靴に、えっ!と声を上げる、
「もしかして佳威もう来ちゃったの?」
「もう?」
聞き返すと先程電話していた相手が佳威だったらしく、俺の状況を聞いて今なら来ても大丈夫と返事をしていたようだ。
だけど俺が急に買い物に行こうと違う話題を振った為、伝え忘れてしまったらしい。
部屋に入った途端、ケーイチは佳威に棘のある声を上げた。
「ちょっと、佳威!来るの早過ぎだし、二人っきりになるなってあれほど言ったのに!」
「仕方ねえだろ。居ないお前が悪い」
「………へぇ?そんなこと言うんだ。佳威が睦人に会わせろ会わせろってうるさいから仕方なく教えてあげたのに…もう面会時間終了です出て行ってください」
「ケーイチ…なにもそこまで」
「そうだぞ。お前は睦人の保護者か」
「少なからず身近な人間でβの俺が一番安心だと思うね。睦人は今ヒート期間なんだから、長いことαなんか近くに置いとけないだろ」
怒っているのか引かないケーイチに、佳威はいつものように言い返すと思ったのだが意外なことに「へいへい」と返事をした。
「αは去りゃいいんだろ、去りゃ。…あ、睦人。抑制剤でやり過ごすんなら、ホントに飲むの忘ないようにしろよ。俺の我慢が水の泡になる。…まあ、ヤりたくなったらいつでも言って」
「ヤ、リ…」
「佳威!!」
本日何度目かも分からない茹でタコになって言葉を無くす俺と、咎める声を発したケーイチを交互に見て声を出して笑うと、佳威は「じゃーな」と言って部屋を出て行ってしまった。
静かになった部屋で、横からケーイチの疲れたような溜息。見ると顔までほんのり疲労の色が浮かんでいた。
「ケーイチ…大丈夫か?」
「うん…大丈夫だよ。…じゃあ、服も持って来たし買い物行こっか。抑制剤も念の為、忘れないように持って来てね」
「うん、もちろんだ。ありがとな」
ケーイチからカーキのパンツを受け取り、財布の中に抑制剤が入っているのを確認した。残り六粒。しっかり入ってる。
俺は財布をズボンに押し込むと、ケーイチと共に必要な生活用品の買い出しの為部屋を後にした。
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