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「ごめんな。荷物持たせちゃって」
「これくらい全然平気だよ。ていうかそんな重くないし俺荷物持ちとして行った意味があんまり無いような…」
「そんなことない。一人で持とうと思うと結構重かったと思うしホント助かった…あ、もう全部そこらへんに置いといてくれたら大丈夫だから!」
とりあえずお風呂と洗面台で使う必需品と、飲み物などを適当に買って来たが、当初の予定よりだいぶ量が少なくなっていた。
実は色々と買っている最中に一番大事な制服の存在を思い出し、さすがに一旦帰らないとまずいと気付いたのだ。
フレンドキャンプは朝から体操服で集合だった為、制服はいま家にある。ついでに下着や私服等は家から持って来る事にした。
俺の感覚としてはウィークリーマンションで過ごす感じかな。もちろんウィークリーマンションでなんて過ごした事が無いから想像だけど。
荷物を机の上に置きながらケーイチが「それにしても」と前置きをする。
「睦人偉いよね。ヒート期間は学校に行かなくてもいいのに、わざわざ行くなんてさ。見直したよ」
「…見直したって、ケーイチの中での俺の位置はどこらへんだったんだ?そして今はどの位置にいるんだ」
「え?ふふ」
意味深に笑うケーイチの言葉通り、Ωのヒート期間はインフルエンザと同じように公的な休みとして七日間休むことが可能となっている。
ただ、きっちり七日間休んでしまうと当たり前だが周りにあいつはΩではないのかと疑われ、最悪バレてしまう。
既に相手がいる人間や、バレてもかまわないと言うのであれば休めばいいが、俺のように隠しておきたい者からしたらそんな分かりやすいことはなるべく避けたい。
さらに言えば抑制剤を飲んで過ごすと決めたのに学校に行かないというのは、さすがに気が引けたのだ。
「…まあもう俺の周りの奴らには殆どバレちゃってるけど、一応隠しときたいんだ。それに一週間部屋でゴロゴロしてるのも暇だし」
「それもそうだね。そういうことなら俺もそろそろ部屋に戻るよ」
「あ、うん…ケーイチさん。ほんと昨日から色々とありがとうございました」
「なんで敬語?気にしないで」
姿勢を正してペコリと頭を下げると、ケーイチが可笑しそうに笑う。
――もうほんと…この笑顔ったら。
ケーイチの笑顔は出会った時から無意識にこちらまで笑顔にさせてくれるし、穏やかな気持ちになる。
昔よく見ていた渥の猫みたいな人懐っこい笑顔は今でも好きだが、それとはまた違う系統の笑顔に癒しを感じていた。
「…前から思ってたんだけど」
「うん?」
「俺、ケーイチの笑顔好きだわ」
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