118 / 289
11
「…へ、え、なに?いきなり」
ケーイチが珍しく少し狼狽えたような声を上げるので、なかなか見られない新鮮味を感じながら笑いかけた。
「なんか安心するよ。最近ちょっと不安なことも多いけどさ、ケーイチの笑顔見てたら大丈夫だって思っちゃう。助かってるんだ、本当に…ありがとう」
「………え、そんな、やめてよ。俺は別に、友達として当たり前のことをしてるまでで、そんな風に言われると…」
いつものようにスラスラと喋れないのか、歯切れの悪い言葉を呟きながら、ケーイチが俺から目を逸らした。
「ケーイチ?」
優しさに触れて嬉しかったことを伝えたつもりだったが、ちょっと臭すぎたかな?もしかして引いてる?なんて思っているとケーイチが勢い良く顔を上げた。
「睦人のバカ!」
「バカ!?え…?そ、そりゃケーイチから言わせたら俺なんて底辺のバカかもしんないけど…なんだよ突然!」
「そういう意味のバカじゃない!…知ってる?睦人みたいな人のことをタラシって言うんだよ」
人をタラせる容姿をしてないので、そんなこと言われたのは初めてだ。何故いきなり罵倒されたのか意味が分からず、ケーイチを見ると心なしか血色よく見える。
…んん?
もしかして。
「………ケーイチさん…照れ隠しっすか?」
「はあ?違うよ、ちがう。違うからね睦人。全然そんなんじゃ……、…帰る」
ケーイチは再度プイっと顔を背けると、玄関の方に向かって行ってしまう。
焦るなんて言葉が似合わない程、落ち着いていてしっかり者のケーイチの珍しい反応に驚いた。
本当にこのまま帰るのか?と玄関で靴を履く後ろ姿に向かって呼び掛けると、少し間を置いて振り向いてくれた。
「…俺だって、睦人の素直にお礼言ってくれるとこ好きだよ。これからも俺に頼ってね。じゃあ、また月曜日」
「!…う、うん…またな」
俺の返事に満足そうに微笑むと、静かに扉を閉めてケーイチは部屋を出て行った。
………………やり返された。
どっちがタラシだか。
ケーイチが去った今、一人部屋で照れるのは俺の番だった。きっと今この場に佳威が居たら、また「お前ら恥ずかしいこと言い合ってんじゃねえよ、他所でやれ他所で」とか言われるんだ。
ケーイチめ、照れてたと思ったのに、油断ならない。
「うう、………シャワー浴びよ…」
なんだか、すっごくむず痒い。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!