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早口にまくし立てると母親は、アラヤダと手で口を覆った。 「そんなカリカリしないでリッちゃん!それならちょうど良かった。渥くん、あんたに用があって来てくれてたのよ」 「………………俺に?」 まさか! ――本当に? 渥を見ると否定もせず、母親の言葉に頷く。 「久しぶりに睦人と遊びたいなと思って。ヒートなら駄目かな。あ、でも抑制剤飲んでるなら大丈夫だよな?」 「……お、おお…?いや…」 大丈夫、ではない。 頭が痛くて遊ぶところではない。 渥からの嬉しい申し出だが、突然過ぎて意図が掴めないし、今はそれどころではなかった。断りの意思を伝えようとしたが、今日の母親は絶好調で空気が読めないらしい。 「大丈夫よ~!りっちゃんなら。それに渥くんと一緒に居るなら安心じゃない」 「は!?」 何故母さんが返事をするんだろう。一体何を根拠に安心と言っているのかも分からないし、そもそも渥はαなんだぞ。知らない…なんてことは無いだろうし、もしや忘れてるんだろうか。 「香織さん、俺一応αなんですけどいいんですか?」 渥も同じことを思ったのか、苦笑するように母親に顔を向けた。渥ほどの奴が「一応α」だなんて謙遜の言葉を吐くのは少々気に触る。 母親は今度両手で口元を抑え、少女のようにふふふと笑った。 「むしろ大歓迎よ~!なんならうちの子貰ってくれない?Ωだっていうのに美人に産んであげられ無かったし、売れ残ったら可哀想で…」 「母さん!?」 ほんと今日はどうしたんだ!?無邪気に笑う姿は、さながら友達の恋を応援する女学生。きゃっきゃっするのやめてくれ… 母親のとんでも発言に慌てる俺をよそに、渥は猫のように目を細めて人好きのする笑みを浮かべた。 「貰ってもいいんですか?じゃあ、睦人は俺と結婚する?」 「…………けっこ」 「結婚!?キャ…、やだーーー!公開プロポーズじゃない!亮太さんに連絡しなきゃっ」 「いやいやいや待って待って母さん!どう考えても冗談だから!むしろ冗談じゃないとおかしいから!…ちょっ、携帯出すのやめて!父さん、今仕事中だろ!?」 俺の言葉に被せる早さで反応した暴走気味な母親を止める為、リビングに駆け込み本気で父親に電話をかけようとしていた腕を掴んだ。 渥もなんとか言えよ!と目配せするが面白いものを見るかのようにほくそ笑んだまま何も喋ってくれない。勘弁してくれ! 「ほんと落ち着いて!渥は学校にいっぱい番候補もいるだろうし、同じレベルの綺麗なαがいっぱい居るんだ。まず、俺はあり得ない。そもそも俺と渥は幼馴染で友達だから!」 今は友達でさえ無いのかも知れないけど。

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