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車内で慌てたのは、俺だ。 「なにその住所?どこの?てか、なんでタクシー?」 移動手段がタクシーなんてそんな高校生いてたまるか。それとも都会はこれが普通なんだろうか。タクシーなんて生まれてこの方、片手で事足りるくらいしか乗ったことはない。それも一人ではなく両親とだ。 ついでに言えば寮生活用の買い出しに出た為、財布の中はいま心細いことになっている。 「遊んでくれるんだろ?寮より俺の家の方が近い」 隣で優雅に腕を組む渥はそれだけ言うと、話は終わりとでも言わんばかりに窓の外へ顔を向けてしまう。 学校では話しかけるな、なんて酷いことを言う癖に俺と遊ぼうとわざわざ家まで来る意味は一体なんなんだろう。 やはり学校以外でなら話しかけても問題ない説が有効なのか。 それに渥の家だなんて…普段の俺なら、性懲りもなく昔のように遊べるのかと心弾むところだったが、残念ながら今はそんな気分にはなれなかった。 「嬉しいけど…俺いま頭痛くて、ほんとは遊ぶ元気ない…」 俺の声に渥が再びこちらを向いた。 「頭痛?風邪か?」 「いや、多分…副作用だと、思う」 「…ああ。じゃあ休めば?すぐ着くから」 なんの副作用かは伝えなかったが、理解したのか渥はそう淡白に返事をする。 すぐ着くという言葉通り、タクシーは目的地に着いたのかエンジンを止めた。 窓から覗くとそこは、巨大な高層マンションの前だった。 ここは知っている。学校に通う途中で、遠くから見て凄いのが建ってるな、と思っていたマンションだ。 きっと金持ちしか住めないんだ、なんて卑屈になる程には見るからにランクの高そうな佇まいをしている。 俺が出す隙もなく渥は運転手へ料金の支払いを済ませてしまうと、どうすべきか迷っている俺のカバンを掴んでさっさと降りてしまった。カバンを人質に取られ、仕方なく俺も運転手にお礼を言って後を追う。 「渥、こんなとこに住んでるなんてセレブだな」 「……」 横に並んで思ったことを言ってみるが、渥は無表情でこちらをチラリと見ただけで何も言わなかった。 無視ですか…そうですか… エントランスで部屋番号らしき数字を入力し、手の平を小さなモニターに翳す。ピピッという電子音がして目の前のガラス扉が開くと、渥は慣れた様子で扉の奥へ歩き出した。認証システム…だと。 「ハイテク…」 手を翳すやつ、俺もやってみたい。 渥を羨ましそうに見ていると、こちらを振り返り「行くぞ」と短く言われた。

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