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「広…」
言われるがままに付いて行った部屋は、想像を超えるほどの広さだった。
必要最低限のものしか家具がないというのも相まって、本当に人が住んでいるのか疑問なほど殺風景に見える。
全体的に色もなく白と黒のモノトーンで配色されていて、夏だというのに冷たさを感じてしまった。
というか、寒い。
「クーラーいつの間につけたんだ?」
「遠隔操作」
渥が自分のであろう薄い携帯を俺に見せて、テーブルにカチャンと置いた。
遠隔操作だと?普段の生活で遠隔操作という単語を使えるなんて、なんなんだこの生活レベルの違いは。今はそんなことができるのかよ、凄いな。
若者なのに時代に乗り遅れた気分になっていると、渥は違う部屋に繋がる半透明な扉をスライドさせそのまま部屋へ入って行ってしまった。後を追うべきか、待っていたほうがいいのかと辺りをキョロキョロ伺っていると、渥がスッと顔を出し一言。
「何してんだ。来いよ」
「…お、おう」
渥から奪い返した荷物をとりあえず床に置き部屋を覗く。まだ外は明るいと言うのに室内は薄暗く一瞬なんの部屋なのか分からなかったが、目を凝らすと奥にベッドが置かれているのが見えて、この部屋が寝室だと気付いた。
「あのさ…」
「ん?」
「これは一体どういう…?」
寝室で遊ぶと言うには少し年齢を重ねすぎていると思うのだが、どうだろう。
そわそわしだす気持ちとは裏腹に渥は寝室の入り口から動かない俺の手首を緩やかに掴んだ。
「怖いの?」
ニヤリと意地悪そうに笑った渥に、思わず手を引こうとしたがそれ以上の力で引っ張られヨタつきながら俺はベッドに投げられた。あまりの手際の良さに慣れているのかと意味の分からない疑問が湧く。
母親がよく読んでいる少女漫画のような展開に心が追いつかないまま渥を見上げると、先程と同じような笑みを浮かべたままベッドに倒れた俺の足の間に自分の片脚を沈み込ませてきた。
わざとだと思うが、そこに足を入れらると非常に動きづらい。
それでも何とか上体を起こそうとしたが、軽い力で上から肩を押さえ付けられた。
「で?誰が相手してくれたわけ?」
「え?」
「相手にされなかったわけじゃないんだろ?まあ、あらかた想像はつくけど」
それは先程母親と話していた内容についてだろうか。
「な、なんでそんなこと渥に言わなきゃいけないんだよ。というか、ここ他に家族は?親父さんとか居ないのか…」
なんとなく渥の思い通りに佳威の名前を口にするのが嫌で、話を逸らすように家族の話題を出した。
すると、何に反応したのか一瞬だけ肩に触れていた手に力が篭り、浮かべていた悪い笑みが消える。
突然の表情の落差に、ギクリと反射的に体が硬直した。
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