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02

「あんたと渥くんと有くんの。食べる前まで冷蔵庫入れさせて貰いなさい。今日は静香さんいるんでしょ?」 「いるっていってた!もう、行くよ!はやく行かなきゃ!」 今にも地団駄を踏みそうな俺に違和感を覚えるほどに若い母親が呆れながら笑った。 「はいはい。行ってらっしゃい」 渥の家には1分もかからず辿り着ける。何せ隣だし。逆も然り。 家の前まで猛ダッシュで掛けて、背伸びをしてチャイムを鳴らす。 二階の窓が勢いよく開いて小さな天使…ではなく有紀が顔を覗かせたと思ったら、声変わりもまだな可愛い声で「あいてるー!」と叫んだ。 言われた通りドアノブを回すとすぐにドアが開き、靴を脱いでちゃんと揃えて端に寄せる。そうしないと母親にものすごく怒られるんだ。 渥達の居る二階に上がる前に、完璧に場所を把握している台所にタタタと走って行くと、ちょうど中から過去の記憶のままのスラリと背が高くて綺麗な渥達の母親、静香さんが出てきてくれた。 こうして見ると有紀は母親似なんだと気付く。 「おばちゃん!こんにちわっ」 「ふふ。睦人くん、こんにちは」 俺の姿に頬を緩めニッコリ笑顔を浮かべると、腰を屈めて視線を合わせてくれる。 「ジュース!と、プリン!おかあさんが冷蔵庫にいれさせてもらいなさいって。いい?」 「もちろんよ。おばちゃんが入れといてあげるからね。おやつの時間になったら持って行ってあげる」 「うん!ありがと!」 同じように笑い返して俺はまたタタタと走って階段を駆け上がる。渥の部屋の前で扉を開ける前に一度呼吸を整えるため深呼吸をすると、目の前でガチャと扉が開いた。 「睦人。なにしてんの?」 サラリと流れる黒髪がよく似合う小さな渥が首を傾げた。その姿は誰が見たって美少年だと吐息を漏らすだろう。 「よ!これはな、深呼吸ってやつだ!しらないのか?」 「リクー!リク!リク!」 渥の後ろからピョコピョコと顔を出しながら、全体的に渥より色素が薄く天使のような有紀が嬉しそうに笑っていた。 「有紀、来たぞ!待たせたな!」 「まったよー!おそいよお」 柔らかそうな髪が跳ねるたびにふわふわと揺れる。部屋に入りながらその頭をわしゃわしゃと撫でてやると「やあだ、やめてよ~」となんて言うのだが、満更でもないのか本当は嫌がってないことなんて丸分かりだ。 「渥!今日はなにして遊ぶ?」 「そうだなあ。今日は外すずしいし外で遊ぶ?」 渥の言ったすぐ後に開いていた窓から心地よい風が通り抜けて行く。 「さんせー!有紀もいくよな?」 「うん!」 一つしか違わないというのに有紀は俺たちより体が小さく弱っちいイメージで、外に出るとすぐにその小さな手を握ってやる。 で、どこ行くー?と渥に尋ねると、悪巧みをするようにニヤリと笑うと「学校」と答えた。

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