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「!」 ハッと目を覚ますと、見慣れない天井に一瞬脳が混乱した。 いつも見ていた天井のシミは……無い。 かと言って新しい自宅の部屋とも違う内装に、少し間を置いて渥の部屋を訪れていたことを思い出した。 辺りを見渡すと起きていた時と同じようにカーテンが締め切られていて薄暗かった。一体どれくらい寝ていたんだろう。 あまり時間がたっているようには思えないが、とにかく一度ベッドから降りようと布団から抜け出る。 ゴソゴソと動いた時に、布が擦れる、たったそれだけの感触にゾワリと背筋が震えた。 「…ァ…」 この敏感なまでの反応。 ――薬が切れた…!? 幸いなことに、抑制剤の効果が切れたことはすぐに分かった。 つまり昨日抑制剤を飲んでから、24時間を切ろうとしているのだ。…でも、おかしいな。しっかりアラームをかけて寝た筈なのに。気付かない程爆睡していたのだろうか、俺は。 ハッキリしない違和感を覚えるが、それよりもこのままではまずい。 今度は自制心のある内にとベッドの脇に置いていた財布に手を伸ばすと、同時に側にあった携帯の画面が光り、ポーンとメッセージの受信が表示された。薄暗い部屋の中で画面の光だけがやけに眩しく感じる。 財布を開きながら、チラリとそちらにも目をやると差出人は有紀からだったようで、 《リクー?病院いった?ほんとに風邪だった?返事ないけど、生きてるよね?》 という有紀なりの心配の内容だった。 そういえばまだ返事をしていなかったと気付くが、今はそれどころではない。 とにかく抑制剤を飲んでからだ、と財布の中を覗き込むが――何故? 抑制剤がない。 見当たらない。 「あ、れ?ここに、入れてたんだけど…」 ほんの少し吐き出す息が熱を持ち出す。 ヒートの影響か焦りの気持ちかどちらのものか分からないが、鼓動がドクドクと早くなっていく。 思い切って財布を反対に向けてサイドテーブルの上にバサッと中身を出してみるが、落ちて来たのはレシートとお札が数枚。 やはり抑制剤の錠剤シートが見つからなかった。 でも、そんなはずはない。何度も何度も確認したんだ。眠りにつく前までは確かにここに入っていて、きちんと残りが六錠あることも目視していた。 ない筈がない。 「あっ…!」 もしかしたらいつの間にか荷物の中に紛れ込んだ? 気力を振り絞ってよろめきそうになる足を動かし、部屋を出て荷物を置いた筈のリビングに小走りで向かうと、ソファーで渥が何か小難しそうな本を読んでいるのが目に入った。 ――

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