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「あ、渥…ベッド貸してくれてありがとな。だいぶ良くなった」 本当は頭痛の事など考えてる暇がない程に焦っているので本当に良くなったかどうかいまいちよく分からない。だけど表情の見えない渥に不安を感じ、その不安を掻き消すように喋り掛けていた。 「そう。それは良かった」 「うん。それで、あのさ…ちょっと聞きたいんだけど、どっかに薬のシートみたいなの、落ちてなかった?」 そのままの流れで病院に行く前に念の為、渥にも聞いておこうと思い控えめに尋ねると目の前の影が少しだけ揺れる。 もう気付かれているのかも知れないが、なるべく変だと思われないように自然と振る舞うことを意識してみたが、大丈夫だろうか。 あまり今の状態でαに近付きたくはないな… 「薬ねぇ」 渥が入り口にソッと肩をもたれ掛からせて、ほんの少し首を傾げる。 逆光で見えなかった顔も目が慣れてくるとぼんやり見えるようになったその表情は、夢の中で見た小さな渥の笑顔とは似てるようで全く似てない笑みを浮かべていた。 「これのこと?」 スラリとした綺麗な指が目の前で掴んで見せたものは、俺が探し求めていた――抑制剤のシートだった。 「それ…!?あ、なんだ!渥が拾ってくれてたのか…!俺、てっきり落としたのかと思って………焦ったぁ…」 抑制剤を目にした瞬間一気に安堵の息が溢れた。 早まっていた鼓動が少しずつ収まって行く。対して下半身の疼きはさらに強まるのを感じて、足早に駆け寄り渥の手にしていた抑制剤に手を伸ばした。 「落ちてたわけじゃ、ないけどね」 「…え…、………おい?」 が、目の前の抑制剤はパッと高く上げられ俺の手には届かない高さに移動してしまった。 抑制剤を目で追った後、その下にある渥の顔を見ると相変わらず何が楽しいのか口元は緩やかだ。 「渥…?」 「手、震えてるよ」 「っ!」 パッと自分の手を見ると、指摘された通り小刻みに震えていた。なんで俺…寒いわけでもないのにどうしたと言うんだ。 「これ、相当強い抑制剤なの知ってる?初っ端からこんなの飲むから副作用が出るんだ。頭痛に加えて手の震え、結構ヤバいんじゃない?」 「……それは…」 そういうことか。確かに副作用のレベルから言えばヤバイのかも知れないが、だからと言ってどうすることもできない。 俺がそういうことは好きな人としたい、と強いこだわりを持っていたのを知ってた先生だったから多分強めの薬を処方してくれてたんだと思う。 まさか、手の震えが来るまでとは。

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