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「…ヤバイ、かも知れないけど飲まないと…。渥、気付いてる、よな?俺、いま」 「欲情してる、か?そんな濃い匂いさせといて気付かないわけがないだろ」 「う…。…自分じゃよく分からなくて、ごめん。すぐに抑えるから薬、渡してくれ」 なんだか非難されてる気がして、俺は申し訳無さに俯きそうになったが、何とか堪えて渥に視線を送る。 「そんな状態でまたコレに頼って…お前、死にたいの?」 乾いた笑いが聞こえた。 死、という直接的な単語にドキリとしてしまう。 「αが傍にいたんだろ。どうして、薬に頼る方を選ぶ?抑制剤で副作用に苦しむくらいならαに愛されて気持ちよくなった方が賢明だと思わないのか」 渥が静かに部屋に入って来て、それと同じように俺も無意識に後ずさる。 「それとも…お前がそのαのことを気に入らなかったとか?」 「っ、違う!そんなんじゃない!佳威は大切な友達だから……俺は自分で抑制剤飲むって言ったんだ」 「……へえ、光田といたの」 「…!」 思わずカッとなって言い返してしまってから、言わなくてもいいことを言ってしまったと気付いた。 だんだんと脳が思考を鈍らせて来ている気がするし、こうしている間にも体の疼きがどんどん強くなる。直接触れる下着さえもなんだかいつも以上に気になってしまう。 「光田か有紀のどちらかだろうとは思ってたけど、有紀がヒートのお前を離すわけがないしな。…お前に気付かなかったってことは、どうせ違う奴とでもヤってたんだろ。もう病気だな」 違う奴とヤってた…その通りだが、病気とは一体どういうことだろう。疑問は浮かぶが、今はそのことについて深く考える余裕がない。有紀のことは後でいくらでも聞ける。 それよりも今は… 「渥……副作用は、もう仕方ないんだ…。このヒートが終われば薬をもっと身体に合うものに変えてもらうつもりだし…とにかく、お願いだから」 ――それを渡してくれよ。 懇願するように渥にそろりと手を伸ばす。視界に入る俺の指先は小刻みに揺れていた。 確かに震えが止まらない。 こういうのテレビで見たっけ。 なんだか俺、薬物中毒者みたい。 必死な顔をしているだろう俺に対して渥は携えていた笑みを消すと、手に持っていた抑制剤を背後の壁に沿って置かれていたゴミ箱に向かって投げる。 そんなところで細密なコントロールを発揮しなくても、と思うように抑制剤は吸い込まれるようにポトンとゴミ箱に落ちていった。

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