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「…お前ね…俺は光田みたいに紳士じゃないんだよ」 頭上から溜息と共に呆れた声が聞こえてきて、やはり失望させてしまったのか、とより一層涙が溢れそうになった俺の頬に、不意に手が添えられて上を向かされた。 視界に広がる綺麗な顔は相変わらず無表情だったけれど、その目はしっかり俺だけを見つめていて僅かな高揚感が高まる。無意識に見惚れてしまう。 そしてそのまま顔が近付いてきたかと思えば、なんの躊躇いもなく唇が重なり驚きに目を見開いた。 慣れた様子で何度も触れる唇の柔らかさと、唇を割り開いて侵入してくる舌の熱さに、戸惑いと歓喜が同時に押し寄せてくる。足先から頭のてっぺんにまで瞬時に痺れが駆け巡った。 「っん…」 キスに翻弄されながら、体から力が抜けていく。渥には何度かされたことがあるというのに、目の前に居るのがαなのだと脳が過敏に意識を強め下半身が上機嫌に反応してしまう。 「渥……っ」 深い口付けが終わると、渥は俺の目元に唇を寄せ涙を舐めとった。 優しげな行為に名残惜しさを感じ、そろりと頬に手を伸ばし再度キスをせがむと、薄く笑って今度は軽い触れ合うだけのキスが落ちてきた。 「キスだけでいいのか?」 揶揄(からか)うようなニュアンスに、俺は力なく首を振る。 「なら、ちょっと我慢して」 そう言うと渥は俺の身体を軽々と抱き上げ、数歩先のベッドへ向かう。普段なら同い年の男にお姫様抱っこされるなんて、恥ずかし過ぎて暴れるところだけど今は上手く体が動かせない。 俺の体を先に背中からベッドに倒し、そのまま再び濃厚なキスを交わす。 唇を合わせながら、渥は俺の体に触れ、シャツを捲り、そのまま脱がすとなだれ込むようにベッドに乗り上げてきた。素肌が柔らかくふかふかなシーツに包まれる感触に、知らず識らずのうちに体が期待で震える。 「ア…、渥…」 唇が離れ、首筋に添わされた擽ったいような感触に小さく声を漏らすと、反応するように渥が顔を上げた。 「!」 一瞬息が止まる。 交差される視線に、表情に、言葉にならないような感情が溢れ出しそうになったが何よりもまず驚いた。 今までの余裕のある表情とは一変して、その顔は熱に侵された時のように色気を孕み、俺だけを見つめる吸い込まれるような黒は深く深く落ちてしまいそうで、少し怖い。 凶暴さを感じるほどの欲望と色の強い視線に、どこにそのナリを潜めていたのかと怯えそうになった。食べられてしまう、そんな恐怖をも感じる感情が沸き立つ。

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