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なんてことを考えながら瓶の中から抑制剤を取り出しサッと口に含もうとしたら、突然横から佳威の手が伸びてきた。
「これ…」
「ん?…あ、これ?抑制剤だよ」
「………こんなんだっけか」
一瞬考えるように黙った佳威が眉を寄せるのと同時ぐらいに、佳威の背後から元気な声が飛んできた。
「あー!リクだ~!リクおはよ~!」
嬉しそうな声とは裏腹に声の主は走ってくることも無く、だらだらとスタイルの良さが勿体無い程のんびりとこちらに歩いてくる。
佳威越しに目を細めて見ると、予想通り有紀が相変わらず派手な格好で手を振っていた。周りの生徒たちが有紀の姿にキャッキャと色めき立つ。
佳威は明らかに面倒くさそうな顔をして掴んでいた手を離した。俺は慌てて抑制剤の瓶をカバンの奥底にしまい込み、有紀に悟られないよう口までしっかり閉める。
「有紀、おはよ」
「おはよう、有紀くん」
「つーかもう昼だっつの」
「ん~、起きれなかったあ。佳威クンも渓センパイもおはよ~ございまあす。はー、お腹空いた。リク何食べてるの?」
傍に寄ってきた有紀は佳威とは反対側の俺の隣に腰掛けて手元を覗き込んでくる。
「素麺。食うか?」
正直今日はあまり食欲も出ず、ツルッといけそうな素麺にしてみたがそれさえもちょっと完食できそうにない。
いいところに来たと勧めてみたら、有紀は二コーとキラキラエフェクトのかかっているかのような笑顔になった。
「食べるー!リク食べさせて?」
あーん、と口を開ける有紀に素麺の乗ったトレイをずるずると机の上で滑らせ目の前に置く。キョトンとした有紀だったがすぐに不満そうに唇を突き出した。
「なんで!」
「お前、いくつだよ。素麺くらい自分で食べろ」
「怒られてやんの」
「え~~!佳威クンのバカ!」
「ア?なんで、俺だけ」
「まあまあ。有紀くんも早く食べないと昼休み終わっちゃうよ」
ケーイチが間を取り持って宥めてくれたおかげで、ゴチャゴチャ言わず有紀は大人しく素麺を食べ出した。
ケーイチって佳威とはすぐに口喧嘩になるのにそれ以外の相手にはちゃんと冷静になれるんだな。有紀もケーイチの前では一応後輩の気持ちが出てくるんだろうか。
「ねぇー、リク。もう風邪はいいの?」
「風邪…?あ!おう!もう完全に治ったよ」
「そおなんだ、良かった~!看病するって言ってるのにリク風邪移すから駄目とかわけ訳わかんない事言って会ってくれないんだもん」
「訳わかんないことはないだろ。移したら大変じゃんか」
「リクの風邪なら移された~い!ホンモー」
随分と軽い本望だこと。
「やべえな、こいつ」
佳威が横から呆れた声で呟く声が聞こえて、俺も同感だと頷いた。
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