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放課後、帰る準備をしてケーイチと佳威に別れを告げたら二人して、え?という顔をしたので俺も同じように、え?と足を止める。 「な、なに?」 「いや…睦人、どこに帰るつもり?」 「どこにって………あ」 そうだ。 ヒート中は寮で過ごすって決めたんだった。 すっかり忘れてた。 「しっかりしろよ」 「ごめん、そっか。まだ二人と一緒に居れるのか」 「そうだよ。じゃ帰ろう」 ケーイチが柔らかく微笑み、佳威がカバンを持って立ち上がる。 俺も二人の後を追って体の向きを変えた。 ーーー エレベーターの前でケーイチがボタンを押してくれて、三人並んで降りてくるのを待つ。隣で佳威が眠そうに、ふわぁと大きな欠伸をするのを見て釣られて俺も欠伸をしていると、機械音が聞こえて扉が開いた。 特になにも考えずに乗り込もうとしたが、先客が居たようで後ろから佳威にガシッと捕まれてストップをかけられた。そりゃそうだ。降りる人が先だもんな。危ない危ない。 横にズレながら、出て行く人物を見上げた途端「あ」と声が漏れた。 「………渥」 「お前ら相変わらず仲良しだね」 目の前に居たのはシンプルに真っ黒のTシャツのデニムのパンツを履いた渥だった。 会わなくて良かったと思った矢先にこれか。 目の前に現れた幼馴染は、ラフな格好だというのにまるで作り物のように洗練された雰囲気で、そう簡単には近付けないようなオーラを醸し出ている。 夏だというのに一切汗をかいていないということは今まで涼しい場所に居たんだろう。今日も学校には来ていなかったけど何をしていたのか。 半袖から覗く綺麗に筋肉のついた腕に走馬灯のように昨日のシーンが浮かび上がる。佳威に掴まれたまま、一歩後ろに後ずさった。 距離を取ろうとする俺に気付いて、ふ、と口元に笑みを浮かべた渥はエレベーターから足を踏み出し俺の前に立つ。 そして腕をゆっくりと上げ俺の頬に触れ、学校では接触禁止だったのにいいのかよなんて皮肉も出てこない程驚いた。 話し掛けてくれただけでなく、まさか触れてくるとは思わなかった。 「もう体は大丈夫?」 「ぅ、え…?」 分かりやすく言葉に詰まり、固まる俺の頬をスルリと撫でて手が離れた。 「風邪、だったんだろ?有紀が騒いでた」 「…あ!あー、ああ!うん。薬がよく効いて、うん……ありがとう」 小さく呟いた、ありがとうの一言。 俺なりに沢山の意味を込めてみたんだが気付いてくれただろうか。

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