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返事もなく見下ろしてくる渥の視線に耐え切れず、瞼を落とし視線を少し下にズラすと、首元に見慣れない赤い跡を見つけてしまった。
――待って。もしや、それは。
「随分とお楽しみだったんだなァ」
グイッと体が後ろに引かれ強引に渥との距離が開き、何事かと思えば佳威が俺の頭越しにいつもより落とした声で渥に話し掛けていた。
「…ああ、これ?」
「いつもの取り巻きか?楽しそうでいいじゃねえか」
「寄ってくるんだ、仕方ないだろ。それにこれは…」
チラリと俺に視線をよこす。
やややめてくれ、こっちを見るな…!
「どっかのバカが興奮して付けてきたんだ。躾のなってない奴でね」
ニヤリ、と笑われて顔が火照る。やはりそのキスマークは俺が付けたのか…。全く身に覚えがないが、あの時の俺ならやりかねない。申し訳ない、本当に申し訳ない。というか付け方なんてよく分かったな、俺…
耳まで赤くなってるんじゃないかと思うほど恥ずかしくなっていると不意にケーイチの視線を感じた。助けを求めるように見返すと困ったように笑いかけてくれる。
「…佳威、いちいち喧嘩吹っかけるなよ。ごめん、こいつ今眠くて機嫌悪いんだ」
「噛み癖あるんじゃない?躾は飼い主の務めだろ」
「ァア!?」
「なかなか言うこと聞かないんだ。…あ、やばい閉まる」
渥の背後でエレベーターの扉が閉まりそうになりケーイチがボタンに手を伸ばす。
ボタンを押さえたのをチラリと横目で確認した渥は、「じゃあな」と一瞬だけ俺を見てさっさとエレベーター前から離れると寮を出て行ってしまった。
「おい!……チッ」
後に残されたガルルと機嫌の良くない佳威と、ケーイチのナイスフォローに両手を合わせて拝みたい気分の俺、そして何とも言えない表情のケーイチと共にエレベーターに乗り込んだ。
ーーー
「で、まさかとは思うけど睦人、黒澤くんとヤっちゃったの?」
一度部屋で別れた俺たちだったが、ケーイチから突然「今から行きます」という連絡が入って、その数分後に現れた本人と共にソファーに座り込んでいる現在。
敬語でメッセージが来たことにもビビったが、ケーイチの口からヤルなんて下品な言葉が飛び出たことに愕然としてしまう。いつものように笑顔なのは笑顔なんだけど、時折見せる黒い笑みに近い。
正面から顔を見ることができず、気まずさから俺はソファーの上で足を抱え体育座りをしていた。
「ヤ………り、…ました。はい…」
蚊の鳴くような声で答えると、隣でケーイチが額を手で覆った。
「んー…睦人……」
「ご、ごめん!抑制剤で過ごすなんて言っときながら結局…!ヒートに負けて…いや、俺の意思が弱いのが原因なんだけど……せっかく佳威が助けてくれたのに…俺…俺サイテーだよな…」
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