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恥ずかしさと情けなさに泣きたくもないのに涙が浮かびそうになる。もちろん泣くつもりもないのでギュウゥと足を抱える腕に力を込めた。 「佳威のことなんてどうでもいいよ」 そんな俺に、ケーイチはひどく優しい声色で囁く。僅かに布の擦れる音が聞こえたかと思うと、膝に顔を埋めていた俺の頭をそっと撫でられた。 「無理矢理だった、とかじゃないの?大丈夫?……俺で良ければ話、聞くから」 子供に話しかけるような言い方にそろりと顔を上げると、想像していたように穏やかで労わるような視線を向けてくれてくれていた。 「け、……軽蔑、しないのか?」 「どうして?」 「だって、俺…無理矢理されたわけじゃない。どっちかというと俺が…」 「睦人。どんな理由があったとしても俺は睦人を軽蔑なんてしない。…俺はβだから、良く分からないこともあると思う…でもΩである睦人は、俺には分からないことで色々悩んでるんでしょ?相手のことが分からないのに軽蔑するなんて、そんなこと俺はしたくない」 優しさと強さを持ち合わせたような真っ直ぐな言葉に胸を打たれ、泣かまいと決めていたのに思わずウルウルと目元を潤ませてしまった。 よしよし、と撫でるケーイチの手のひらが心地いい。 「俺……佳威になんて言えばいいのか…」 「言わなくていいよ」 キッパリと告げられる言葉。え?と視線を向けると、あ…と言葉を濁した。 「いや…佳威のことだからさ、そんなこと言ったら殴りに行くとか言い出しかねないし」 そう言えば矢田の時も一発入れてくる、みたいな騒動があったっけ。佳威は友達想いな奴だし、安易に想像がつく。 「そうだな。…うん。言わないでおく」 「というか、それは佳威だけじゃなくて俺以外には絶対に他言しないほうがいいよ。…まさか本当に黒澤くんが相手にするなんて。よっぽど二人は仲が良かったんだ」 「…どういうこと?」 話を変えるように笑うケーイチだが、俺にはその言葉の意味がよく分からない。 「あれ?言ってなかったっけ?黒澤くんってαなのに、Ω嫌いで有名なんだよ」

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