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「Ω嫌い…?」 ケーイチがコクリと頷く。 「あれだけ凄いαの遺伝子だし、入学当初は凄かったんだ。Ωの子達がこぞって黒澤くんにアタックしに行っててね、でも黒澤くんは見向きもしなかった。βやαの綺麗所は受け入れるみたいだったけど、Ωだけは誰一人として許容しないんだ」 そういえば、ミキちゃんの時もΩである俺さえも靡きそうになる誘惑をしてきていたというのに、渥はキスも何もしなかった。そのまま矢田に引き渡していたが、あの時は矢田が現れることが分かっていたから手を出さなかったのかと思っていたけれど… 「そのうち、嫌がる黒澤くんの為にって周りの取り巻き達がそのΩの子達を攻撃するようになってね、最初に比べたらだいぶこの学校のΩは減ったんじゃないかな」 ただでさえ少ないのに、と付け足す。 「もしかして…だから最初ケーイチは渥には近付くなって言ってくれてたのか?」 「まあ…それもあるかな。睦人がΩなのに、黒澤くんと知り合いだからって堂々と話しかけてるの見てヒヤヒヤしたよ。でもΩであることを隠してるみたいだったし、黒澤くんも知らない素振りをしてたから」 「うん…」 「もしかしたら黒澤くんはワザと睦人のことを知らない、なんて言ったのかもね」 ――それってつまり、渥がああいう態度をとってくれたから俺は攻撃されずに済んだって事か? 「………」 本当にそうだったら嬉しいけれど、実際のところはどうなんだろう。 あまり良いように想像してまた後で打ちのめされるのは嫌なので、この件は今これ以上考えるのはやめておくのが賢明な気がする。考えたところで真相は本人に聞かないと分からないし、何よりも―― 「渥…Ω嫌いだったんだ…」 そのことが思った以上に脳内を占めていた。 「…ショック?」 「あー…う、ん…まあショックじゃないと言ったら嘘になるけど」 「…そうだよね。ごめん、余計な情報だった」 「あ!いや、そんなことない!…むしろ、知れて良かった」 Ωが嫌い。 何故俺の相手をしてくれたのかは謎だが、だとしたら肌を重ねていた時のあの異常なほどの突き刺す言葉も少しは納得できる。 どうしてΩが嫌いなのか、何があったのか、それが分からないから突き付けられた言葉の内容を理解するのは難しいが、ああ、そうだったのか、と。 嫌いな種と肌を合わせるのは苦痛では無かっただろうか。 「睦人」 暗くなりかける心に、あたたかい光が差し込む。声に温度なんてあるわけないのにそう思ってしまうような穏やかな声色で隣から名を呼ばれた。

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