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変わる空気に、なに?と口を開こうとしたら、ズイッと佳威の体がこちら側に近付いてきて思わず体が強張る。 「ッ佳、ぃ…」 そして腕を引かれ、唇を塞がれた。 「!!」 慌てて抵抗をしようと硬い胸板を押し返すがビクともしない。ああ!駄目だ駄目だ! いくら抑制剤を飲んでるからと言ったってαにこうも近付かれたら心がざわつく。瞬く間にΩ細胞が騒ぎ出す。 有紀は何をしでかすか分からなかったから二人きりになるような真似はしなかったのに、まさか佳威がこんなことしてくるとは思わなかった。拒む俺の顔を捕まえて、舌が入り込んでくる。唾液が絡まる。逃れられない力に焦る気持ちを無視するかのように、どんどん脳内に霞がかかっていくのが分かった。口内を舐めるような舌も体も熱い。 なんで、なんで…佳威…!! 必死にΩの欲に抵抗しながら、ギュッと目を瞑る。 耐えろ、耐えろ。馬鹿、俺!欲情すんな! 心の中で自分に抑制の言葉を掛けるが、それでもふわふわし出す脳に心臓がドクドクと早鐘を打つ。抑制剤を飲んでいるからフェロモンが出ることはないと思うが、別の不安に駆られる。 ――嫌だ!俺また変になる…これ以上嫌われたくないんだ。やめてくれ! 生理的な涙が浮かびそうになっていると、ようやく佳威の唇が離れた。嫌だと思っていたのに、離れていく唇に一瞬だけ名残惜しさを感じてしまいそんな自分に腹が立った。 これじゃミキちゃんのこと、言えないじゃないか。 恐る恐る目を開けると、佳威はどこか痛いところでもあるかのような苦しそうな顔していた。 「…好きでもない俺にキスされただけでそんな顔する癖に、我慢したなんて嘘、やめろ」 「…なんで…」 そんな顔ってどんな顔してるんだろ。佳威の顔しか見られないし、漫画みたいに相手の目に映る自分なんて見ることはできない。 「嘘つくなって前、言ったよな?」 「………うん」 「嘘つかれた方が心配になるって。お前自分じゃ気付いてねえのかも知れないけど、嘘ついてんの結構わかんだぞ」 「そう、なのか…?」 そういえば有紀にも以前、リクは嘘つく時の癖があるとかなんと言われて見抜かれていたっけ。もしかして俺って分かりやすいのかも知れない。 「言えよ。休薬期間、誰と居たんだ」 でもそういう佳威だって、怒ってないとは口では言っていたがどう見ても機嫌は良くない気がする。口調も表情も極道の息子であることをつい思い出してしまう。

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