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第10話

「あらっ、りっちゃんおかえりなさ〜い。どうだった?初めての寮生活は楽しかった?ご飯はどうしたの?洗濯物は自分でできた?夜はちゃんと一人で寝られた?」 「わ!?やめてよ母さん!ちょっ、ひっつかないで、って、…もう!なんなんだよ!母さんが一週間帰ってこなくてもいいって言ったんじゃんか!」 「だあって~、あんたがいなくて母さん思った以上に寂しかったんだもん」 今年で40代後半へと突入する母親が語尾にもんをつける事にいささか疑問を感じながら、俺は母の怒涛の質問責めに悲鳴を上げていた。 フレンドキャンプから約一週間後の授業も終わった夕方。荷物を持って家に帰った途端に夕食の準備をしていた母親がリビングからパタパタと小走りで現れてガバッと抱き着かれた。 思春期真っ盛りの息子に抱き着くある意味すごい母親をぐいーっと自分から離してさっさとリビングへと向かう。しかしすぐに後ろからまたパタパタとスリッパの音を立て立てながら追いかけてきた。 「今日はね、りっちゃんの好きなアレよ、アレ!もう少しでできるから待っててね」 「アレ?…うん、分かった」 いつにもなく優しい母親に返事をしてクーラーの効いたリビングのソファーにどさっと体を投げ出した。自分の部屋のクーラーが効くのも時間がかかるし、なんだか我が家の匂いを嗅いだだけで体の力が抜けてもう動く気になれない。 ケツポケットから携帯と財布を出して側にある机の上に置いてから、再びゴロンとソファーに横になった。 アレが何なのか一瞬分からなかったがパチパチと油が跳ねる音に「唐揚げだ」と気付く。寮の食堂でも唐揚げ定食があって一度食べたけど、やっぱり家のが一番美味いと確信しただけだった。家のとは言っても、母さんのことだから隠し味とかそんなものはないと思うが食べ慣れた味は強い。 一度机の上に置いた携帯を再度手に取りカチ、と画面を開く。先ほど携帯が震えた気がしたが案の定メッセージが入っていた。 《リクー明日あーそぼー》 ――有紀か。 こいつは本当にほぼ毎日のように何かしら連絡を寄越してくる。マメというか暇人というか、俺に構って貰いたい感を少しも隠さないのが逆に凄い。 たまに校舎で見掛けるが、誰かしらが横にいる。それが可愛い女の子だったり、はたまた男の子だったりもする時もあるけど、まあとにかく人気者という感じだ。 ヒートも終わったし毎回断るのも可哀想な気がして「いいよ」とだけ返した。 そのまま再びテーブルに画面を伏せて置くと、すぐに携帯が震えたがきっと「やったー!」とかそんな感じの返事だろう。 確認するのは後にして、ふぅと息を吐いた。 あー、久々の我が家だ。 やっとヒートが終わった。 終わったんだ。

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