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02
改めてヒートが終わった事実を脳内で反芻する。実感が湧いた瞬間ドッと疲れが押し寄せて来た。体力的というよりは、精神的な疲れ。
俺はこれから三ヶ月に一度あのヒートに悩まされることになるのか。
その度に自分がΩなことを意識して消えてしまいたくなるんだろうか。
嫌だな。
難しく考えることなくシンプルに嫌だな、と思う。
今まではとりあえず持っていた抑制剤。これからは本当の意味で手離せなくなった。鞄の中に入れた新しい抑制剤の存在を意識すると同時に、番なんてくだらないと言った渥の言葉を思い出していた。
――くだらない…か。
俺は、そうは思わない。
ヒートが誰から構わず誘惑するフェロモンを出さないようにするにはαと番うしかないし、いつかは番を見つけてこの苦しみから逃れたい。
だけど、まさかこんなに早く俺のことを番にしたいなんて言ってくれる奇特なαが現れるなんて思わなかった。
「………はあ」
そしてそれをまさか佳威の口から聞くことになるとは。
溜息をつく。唐揚げの揚がる美味しそうな香りを意識しながら、目を閉じた。
『……なんてな、冗談』
でもあの後すぐに冗談だと笑われた。
固まる俺の背中を叩いていつものカラッとした笑顔を向けられたんだ。
『んな顔すんなって!冗談に決まってんだろ!』
『え?…え、佳威、』
『しっかしあの黒澤が相手とはな。どう?良かった?』
『ッバカ、何言ってんだよ!』
『でもなあ?せっかく俺が我慢したのに腹立つよな。今度は俺が相手してやるから言えよ?』
『いや、いやいや!体に合う抑制剤も見つけし、次からはあんなことにはならないから…』
『んな冷たいこと言うなってー』
『わあああ!?』
頭をグシャグシャと掻き回される。その手を退けた先に見えた佳威はまだ笑顔のままでホッとした。なんと答えれば良いのか分からなかったし冗談だと笑われて良かったと思う自分がどこかにいる。
乱れた髪の俺を見て満足そうに頷くと、ぱっと立ち上がって再び頭に手を置かれた。
『勝手にキスして悪かったな。これからも友達としてよろしく』
『え………いいのか?』
『いいのか?ってなにがだよ。俺と友達は嫌か?』
『そんな、嫌なわけないだろ』
『なら、変な質問すんなよな。…じゃあまた明日な』
声に出して笑うと佳威は俺の頭から手を離し、部屋を出ていった。
次の日からは何事も無かったように佳威は俺に接してくれて、だから俺も自分からはその話題に触れずに普段通りに接していた。あまりにも自然で何かと察しの良いケーイチにも何も言われなかった。
佳威は一体どういうつもりであんなことを言ったんだろう。
聞くに聞けれなかった。
「りっちゃん!できたわよ!お腹減ってるでしょ?先に食べていいわよ」
母親の声が聞こえて思い出していたシーンが消えていき、俺はゆっくりと目を開ける。
同時にグゥ…とお腹の鳴る音がした。
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