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03

騒つく街並みを、たくさんの老若男女が忙しなく歩いて行く。 未だにすんなり歩くことが出来ない俺は何とか隙間を掻き分けながら、目的地へと進んでいた。 こちらに引っ越してきてから学校の往復で遊びに出掛けたの初めてだ。佳威とケーイチとは学校終わりにご飯に行くくらいだったから、なんだか新鮮な感じがする。 高い人口密度に既にぐったりしてるなんて、そんなことはない。多分。 本日の目的の相手と、俺の家から近い駅前で待ち合わせることになったわけだが、駅前に着くといやに女性が多い。大人から同年代ぐらいまで、それぞれに固まってキャッキャと楽しげにしているのだが、一つのグループを通り過ぎた際に「格好いいよぉ~…モデルみたい」と甘えたような声が聞こえてピタリと足が止まる。 格好いい、モデルみたい、そう囃し立てられる人物がこの先に居る。俺の脳裏に瞬時にその二つのキーワードが当て嵌まる人物が浮かんだ。 「………やっぱり」 つい小さく声が漏れてしまった。 制服でさえあんなに派手だったのに私服がシンプルなわけがないよな。いや、でもよく見るとアイテムとしてはシンプルだ。 目が痛くなるようなサイケデリックなVネックにピタッとしたスリムなスキニーパンツ。掛けるのか掛けないのかは知らないが高そうなサングラスが胸元にストンとアクセサリーのように掛けられていた。 耳元には普段学校でつけているより多めのピアスが光る。どこのメンズモデルですか、と問いかけたくなるようなスタイルの良さに自己を主張するファンションがバッチリ決まっていた。 俺もあんな服を着たら格好良くなれるだろうか。…なれないだろうな。無理無理。 勝手に想像してあまりの不似合いさに苦笑いしてしまった。 コンプレックスなど何も持ち合わせていないかのような人物――駅前に点々と植えられた木の木陰で、のんびりと携帯を触っている男こそが今日の待ち合わせの相手、有紀だった。 なんで、立ってるだけでそんな煌びやかなオーラが出せるんだよ。それもα効果なのか?そんなわけないと誰かに言って欲しい。 少なくとも駅前に居る女の子達はほぼ全員有紀に目を奪われている。誰も声を掛けていないのが不思議なくらいの状況だ。もしかしたら俺が来る前に既に声を掛けられていたのかも知れないが…そんな中どうやって声を掛けたら良いのだろう。 確実に女の子達に嫉妬の炎を燃やされる気がするのだが…そういうのはもう学校だけで充分だ。どうしたものか。 ――帰ろうかな。

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