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本気でそんなことを考えていると、有紀がパッと携帯から顔を上げこちらを向いた。見つかったと驚く俺に反して有紀の頬は緩み、嬉しそうな笑顔に変わる。 「リクー!」 ご丁寧にブンブンと手まで振ってくれるわけだが、有紀の突然の行動に当然のように周りの女の子達の顔がこちらを向いた。 げっ。 複数の女の子達の視線が怖…恥ずかしくて、勝手に体がクルリとUターンをする。そのまま歩き出すと、すぐ後ろから声が聞こえ走る音が近付いてきた。 「ちょっとー、リクひどい!俺の声聞こえてるクセにぃ」 「悪いな。俺はお前と違って女の子達の視線に慣れてない」 「は~?意味わかんないし!ねぇ、とにかく止まってよぉ~!何がしたいの?帰りたいわけ?お家デートでイチャイチャしたいって?」 「んなこと言ってないだろ!俺はとにかくここから離れたいんです」 「なんで!」 「なんでも…、!…………おい」 パシッと手を取られて、指を絡めらる。恋人繋ぎというやつだ。すぐ隣に来た有紀は、俺の歩く速度を自分に合わせるように腕を引いた。 「ゆっくり歩いてよ~、暑いし。先々行くの禁止でーす」 そのあと耳元に顔を近づけられる「守らないならここでチュー、しちゃおっかな」と言い足された。 「絶対すんなよ!?……分かった、ゆっくり歩くから、勘弁してくれ。あと手も…暑いだろ」 「恥ずかしいのー?」 「恥ずかしい」 「ちぇっ」 口を尖らせながら有紀も暑いと思ったのか意外と素直に手が離された。 「あ、ちょっと待って!」 離れかけた手をもう一度、今度は自分から掴み足を止めさせる。不思議そうに振り返った顔に向かって、なるべく真剣に見えるような表情を作った。 「ひとつ言っとくけどな、エロい事とかしようとしたら俺はソッコーで帰るからな。電話でも言ったけどお前こそ、そこんとこちゃんと守れよ」 俺の言葉に一瞬キョトンとした有紀だったが、すぐに意地悪そうにクスッと笑われた。 「自分でフラグ立ててどーすんの?エロいことしてほしいならそう言ってよ~」 「いやいやフラグじゃないからな!!?」 悲鳴のように叫び有紀の手を離す。慌てて距離を取るが、有紀は近付いて来ずに出したままだったのか、手に持った携帯をズボンの後ろポケットに押し込んだ。 「はいはい、分かってますよぉ。まだ、待て、なんでしょ?リョーカイ、リョーカイ」 「………軽」 安定の軽さに不安を覚えるがここは信用しよう。わざわざ人の目の多い外で遊ぶのを提案したのは俺だし、普通にしてれば可愛い弟分だし。

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