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「てかね!そもそもこんなところでグダグダしてるヒマないの!もうそろそろで始まっちゃう!」 携帯をしまい終えた有紀が、急げ急げと囃し立てる。始まるって、何が始まるんだろう。今日の予定は集合時間と場所以外何も決めていないし、言われていない。 俺の疑問に気付いたのか有紀がパッと目先を指差した。 「映画!見に行くよ!」 指差した先には映画館として独立した大きな建物があり、たくさんの映画の巨大ポスターが貼られていた。 ーーー 映画だなんて思ったより普通のことを選んだな、なんて思っていた俺が甘かった。 ――ああ、音がない。音が。 ただ女性のヒールがコツコツ…床を鳴らす音だけが響く。 ただでさえ暗い室内なのに、スクリーンの向こうの世界まで暗いときてる。ヒールの赤が嫌に目立って見えた。 こういうの絶対急に誰か出てくるやつじゃん。分かってる。絶対誰か出てくる、出てく… 『ッ、イヤアアアアーーー!!!』 祈るように見ていた次の瞬間、空気を切り裂くような女性の叫び声が響き渡った。 「…….」 絶句。 目の前のスクリーンで繰り広げられるホラー映画の恐怖映像に、周りからキャアとかウワとか驚く声が聞こえてきたが俺は驚きすぎて声さえも出ない。 こ、こわ… まさか観たいの映画がホラーだったとは… 今更ながら後悔しているが、観たいと言い出した当の本人は隣でアハハと笑っている。 いや、おかしいだろ。 ここどう考えても笑うところじゃない。 念の為に言うが俺たちが見ているのはコントではない。ホラーだ。さらに言えばクオリティが高いと言われる日本のホラーだ。 なんで笑ってられるんだよ。俺なんて効きすぎたクーラーが寒いのか目の前の映像が怖いからなのか、多分両方でカタカタと震えているというのに。こんなの女の子になんて見せられない。 俺の視線に気付いたのか暗闇の中、有紀がこちらを向いた。俺の表情を見て、何故か優しく微笑まれ手の平を出してきた。長い指に何個かシンプルなものやゴテゴテした指輪が見える。 「?」と首を傾げると口パクで「にぎる?」と聞かれ咄嗟に揺れた。 ………握りたい。 握りたいが、それでいいのか俺。頼りになる兄貴でいたいという葛藤の中、俺が選んだのは。 ギュ 上から握手をするように有紀の手を握った。悔しいが仕方ない。意気地なしですまん。 しかし、握った手は一度離され上から俺の手を覆うように指を絡めて握り直された。密着する指の感覚になんだか気恥ずかしいが、同時に安心感を覚えてしまう。 繋がった手を見て有紀を見上げると既にこちらを見ていなくて、視線はスクリーンへ。俺が女の子だったらときめいたんだろうけど、甘えたな有紀にプライドを軽くへし折られた気がして複雑な気分のまま俺も再びスクリーンへと顔を戻した。

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