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「渥?」 「うん、ちょっと出てい?」 問い掛けに頷くと、有紀はサッと席を立つ。 しばらくすると戻ってきたが、気に入らないことでもあったのか分かりやすいほどムスッとしていた。 「渥なんて?」 「…会社来いって」 「会社?」 有紀は不機嫌そうな顔のまま椅子に腰掛け、俺と同じように頼んだアイスコーヒーをズズッと飲みきった。残った氷が崩れて涼しげな音を立てる。 「父さんの経営してる会社。俺も渥もそこでバイト?手伝い?…的なことやらされてんの。渥はもうバイトどころの話じゃないくらい大変そうなヤツやってるみたいだけど」 飲みきったグラスの中の氷をストローでグルグル掻き回す。カランカランと鳴る音を楽しむ、とは言えない表情で有紀はストローをただひたすらに回している。 有紀達の親父さんの会社といえば名の知れた大企業だ。小さい頃はどこかの社長ということくらいしか認識していなかったが、今はもうどれほど大きいものなのか分かる。 つい最近母親が話していたのを聞く限り確か製薬会社だったと思うが、二人とももう親の会社の手伝いなんてしてたのか。 「なあ。…渥がほとんど学校来てないのって」 「父さんの会社で仕事してるからだよ。渥は次期シャチョーだからね~。父さんの下でなんか経営だか運営だかを勉強させられてるみたい。俺はよくわかんないけど。学校にも父さんから大人のジジョーてやつで連絡行ってるんだよー」 「そうなのか…」 それは知らなかった。 でも確かに長男でありαの渥が跡を継ぐのが世のセオリーだろう。かなり期待もされている筈だ。 あまりにも来ていないから出席日数は大丈夫なのか、と心配していたがそういうことだったのか。 「だから、俺は別にいらないじゃないかと思うんだけど父さんがうるさくて…」 氷を回す手が止まらない。相当嫌なんだろう。まあ、折角の休日に急に仕事だなんて行きたくないだろうな。 「…でも呼ばれてるんだろ?親の会社の手伝いって言っても仕事は仕事だし行かないと」 「うん…」 「嫌なのか?」 「やだぁ…」 「………会社まで一緒に行ってやろうか?」 「えっ、ほんと!?」 氷を回していた手が止まり、パッと有紀の顔が華やぐ。それに苦笑いしつつ、頷いた。 「いいよ、それくらい。お前がちゃんとバイトに行けるなら。そうと決まれば早く行くぞ」 「はーい」

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