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「ど、どーかした?」 「あ…あの……変なこと聞いてもいいでしょうか?」 「?…俺が答えられる範囲のことなら…」 俺の返事に手を離すと、川北さんは控えめにこちらを見上げた。上目遣いというやつだが、実際にやられると効果は抜群だ。多分俺より10センチ以上低いのでバッチリ可愛く写る。 川北さんはうるつやで厚みのある唇を開いた。 「浅香先輩ってΩ、ですか?」 突然の質問。何をいきなり言うかと思えば。顔見知り程度の女の子にプライバシーも何もない質問をされるとは思わなかった。驚きはしたが迷うことはない。俺が出す答えは1つしかないから。 「Ωに見えた?俺はβだよ」 落ち着いて川北さんの目を見て答えると、彼女はホッと安心したように控えめに笑う。 「でも、どうしてそんなこと思ったの?」 「…あ、ごめんなさい。不躾な質問で…。私、実は入学した時から光田先輩のことが好きで」 やっぱり、と思いながら俺は口を挟まず会話の続きを促す。 「光田先輩が最近、渓先輩以外の人を気に入ってるって噂で聞いて、キャンプの時に実際に見て…もしかしたら私と同じΩなのかな…って」 だから不安になったんです、ごめんなさい…と、もう一度謝まられた。 気に入ってると聞いて見にきてみればごくごく普通の俺がいて、Ωじゃなければおかしいと思ったってことか?さり気なく悪口言われてない? だが俺は悪口を言われた事よりも、こうも簡単に自分のことをΩだと公言できる彼女を凄いと感心していた。 俺には出来ない。なるべく知られたくない。いずれαと番になる日が来るとは思うが、それはそれ。いつかの話で今すぐではない。 …ああ。そうか。 彼女が公言してきたことには、すぐに別の理由があると気付く。 「あっ、それでは浅香先輩っ、引き止めてしまってすみませんでした。…失礼します!」 可愛らしい笑顔でふわりと笑われて、去っていく華奢な後ろ姿。真っ白なスカートが歩く度に揺れ、ストレートロングがサラサラと風に靡く。 ――牽制された。 優しそうな顔をして、意識しているのかしていないのか。あれは確実に俺への牽制だった。 多分俺がβとか彼女には大して関係無いんだ。好きな相手がαであり、自分はΩであること。それをさり気なくアピールしてきた。 αと番えるのはΩの私。あなたではない。そんな意味合いだろう。 彼女のシャンプーの香りか、香水の香りかとろんと甘い残り香が漂う。 そういえば有紀達がもう少しでヒートが始まるんじゃない?と言っていたけれど彼女のヒートは終わったんだろうか。誰かと過ごしたんだろうか。 雑誌を握る手が無意識に強張った。

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