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「睦人、運ぶよ」 目を逸らした俺の元へ渥が近寄って来る。ふわりと微かに香水の香りが舞った。 「お、おう。ありがと」 「あの人と会ったんだって?」 「え…ああ。親父さん?会ったよ、相変わらず格好いいな」 リビングでは未だに母親と有紀がキャッキャと楽しんでいる。母さんてば数年ぶりの有紀との再会に俺より喜んでいるんじゃないか。 「そう?普通だろ」 「……スーツなんか着て仕事してるんだ?」 「一応あの人の息子としてやってるんでね、うるさいんだ。ただの手伝いなのに。それよりさっきお前見惚れてただろ?」 「はあ…!?だ、誰に」 とんでもない、誤解だと言い返すが、渥は取り合う気もないのかフンと鼻で笑ってコップをテーブルへと持って行ってしまった。なんだか見透かされてるようで悔しい… 駄目だな、どうしても意識してしまう。 世の中の、友達…それも親友だった相手と一線を超えてしまった人達は一体どんな気持ちで接してるんだろう。一度座談会でも開いて聞いてみたい。 皆さんその後友達には戻れましたか? いや、自分は意識し過ぎてなかなか… やっぱりそうですよね、私なんか…… バカな事を考えて自然と俯いていた顔を上げると、今度は母親とお喋りしていた有紀と目が合った。悪いことなんてしていないのに、なんだか後ろめたい気持ちに目を逸らす。…て、なんだ後ろめたいって。 「ただいま~…あれ?お客さん?」 玄関から少し疲れたような父親の声がした。 ーーー 「リクってばね、最初会ったとき俺のこと分かんなかったんだよ~!だれ?みたいな顔ですごいキョトンとしてた!」 「りっちゃんならやりかねないわね」 「りっちゃんはそういうとこあるからなあ」 「………」 「…笑うなよ、渥」 テーブルに両親と渥、すぐ近くのソファーに俺と有紀が座って食後のデザートを食べながら、俺たちは和やかに会話を弾ませていた。 猫のように笑う渥に控えめに文句を言うと、それにつられるように両親が笑う。 ……なんて穏やかな時間なんだろう。まるで昔の時間が戻ってきたような懐かしい感覚に心が温かくなっていく。 ここ最近色々あり過ぎて、この奇跡的な時間にとてつもない幸せを感じる。幸せとはこういうことを言うのだ、なんて詩人じみたフレーズが頭に浮かぶ。 まったりのほほん気分の俺を知ってから知らずか、片手でお茶のコップに手を掛けながら、父親が「もうこんな時間か…」と呟いた。 「もう遅いし、2人とも泊まっていかないかい?」

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