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「えっ」
「亮太さん!いいのー!?」
父の言葉に思わず溢れた戸惑いの声とは正反対の嬉々として体を前のめりにさせる有紀の声が重なった。
「あら、そうね!お布団も予備があるし、二人が良ければ泊まって行って?明日お休みよね?」
「お休みー!やったー!泊まる泊まるー!」
おいおい、マジかよ!と、両親の顔を交互に見るが二人とも名案だとばかりに顔を揃えて頷き合うばかり。
まさか自分の息子が数年ぶりに再開した幼馴染と気まずい関係になってるなんて露程にも思っていないんだろう。
当の幼馴染はどんな顔をしているのかと両親の側に居る渥を盗み見ると、どことなく困った顔をしていた。俺が気付くのと同時ぐらいに母親も気付いたようだった。
「渥くん、明日もお仕事あるの?」
「…はい。仕事というか、明日も朝から父に呼ばれてて。バタバタすると思うので、…残念だけど今日は帰ります。ごめんなさい亮太さん、香織さん」
母の問い掛けに残念そうに答える渥の言葉に心の底でホッとしている自分も居たが、なんとなくそう答えるんじゃないかという予感もしていた。
「いいのよ~!突然だったし!またいつでも泊まってね」
「そうだね。また今度…そういえば渥くん将来りっちゃんのこと貰ってくれるって言ってたんだって?ということはもう息子同然、泊まるどころか帰ってくる気分でいてもいいんだよ」
「そんなこと言われたの?」
「んん?」
冗談だと分かってはいるみたいだが父親の余計な一言に、ソファーの背もたれから身を乗り出していた有紀がこちらを向く。
瞬きをすることなく大きな瞳が見つめてくるものだがら、居心地が悪く逆に俺は何度も瞬きを返す。
「渥が?」
「や…いや…冗談だから!冗談に決まってるだろ。間に受けんなって」
「冗談なんかじゃないよ」
俺たちの会話に割って入ってきたのはスーツのジャケットに腕を通している最中の渥だった。夏仕様なのかサラリとした生地はスーツに詳しくない俺が見ても質の良いものなのだと分かる。肩のヨレを直す仕草が、既に着慣れているのか同い年だというのに異様に似合っていた。
「冗談でそんなこと言うわけないだろ?」
こちらに向かって歩いて来ながら渥が対両親用の優しげな声で笑い掛ける。背後で母親が少女の心を思い出しているのか片手で口元を抑えるのが見えた。
…言うわけないだろ?と言われても。
冗談じゃないならなんだと言うのだ。Ω嫌いで、番なんてくだらないと吐き捨てたその口で何を戯けたことを。番にならずに結婚だけすると?それこそ意味がわからない。
何と返せば良いのか分からず、無言のままでいると渥の視線は隣の有紀へと移った。
「…迷惑掛けるなよ」
「渥にそんなこと言われなくたって分かってるもーん」
つん、と顔を背けて有紀が口を尖らせる。その様子に小さく溜息をついた渥は再びクルリと俺たちに背を向けて両親の方へ向き直った。
「もしこいつが煩かったら遠慮なく叩き出してくださいね」
「やだ、渥くんったら!大丈夫大丈夫!ちょっと賑やかなぐらいが丁度いいのよ」
「そうですか?…じゃあ俺はそろそろ」
ご飯ご馳走様でした美味しかったです、と前回と同様に丁寧にお礼を言う渥に、両親が椅子から立ち上がる。
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