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なんで俺こいつにこんなにも弱いんだろ。
風呂から上がって髪を乾かした後、自室のドアを開ける。さすがに寒かったのか布団の中に潜り込んでいた有紀を見下ろしながら、小さく溜め息をついた。
「有くんの布団持って上がって」という母親の声に一応持ってくるには持ってきたので中央の机を脇に寄せる。有紀は寝落ちてしまったのか、ベッドの上で反応がない。
このまま起きなきゃこっちで寝よ、と目論みながらゴソゴソ準備をしていたが、さすがに気付いたのか布団が動く。
「あー、おかえり…リク」
盛り上がった布団の中から眠そうな有紀が顔をのぞかせた。
サラサラの髪が額にかかる。ワックスもスプレーも何もしていない自然な髪型はどことなく昔の面影が見える気がした。
「寝てればよかったのに」
「なんでえ?…あ!布団敷かなくていいのに!てかソレ重かったよねー?ごめんね!」
「全然。俺をなんだと思ってんだ…」
筋力はあまりある方ではないが、布団一式を持てない程非力でもない。実は馬鹿にされたのか?と疑惑が湧いたところで有紀がやっとベッドの上に放り投げていた部屋着を着始めた。
ただのスウェットが顔のいい奴が着ると何故か高級ブランドに見える。上下合わせて五千円もしなかったあいつも有紀みたいな男に着て貰えて本望だろう…
「なに変な顔してるの?リクおいで〜寝よ!」
スウェットに着替え終えた有紀が再び布団に潜り込みもう一人分のスペースを開けて枕元をトントン叩く。
有紀はスリムなモデル体型をしているので男二人でも寝られないことはないが、本当にあそこに潜り込んで平気なのかと俺の中の警戒心が稼働し始める。
「早くしないと…俺…話す前に寝ちゃうかも…」
「……ああ、もう!分かった分かった。今日はお前のこと信じるからな」
「あっ、その台詞はズルいー!まあいいや」
警戒心を解くつもりはないがどう頑張ってもここは俺の家。両親も居る空間で何かが起こることもないか、と諦めた。きっと父親も分かっていて言い出したのだ。
…無条件で有紀達を信頼してるというのもあるんだろうけど。
電気を全て消すのは心許ないので小さな明かりだけ残し、腕枕態勢の有紀の腕を押し退け枕に頭をつける。いつもの癖かなにか知らないが用意していた腕枕を拒否された有紀は文句を言いながら俺を向かい入れた。
「リクあったかいねー!」
「そりゃさっき風呂入ったばっかだからな」
「体温高い方が妊娠しやすいんだってえ」
「突然なんだお前!?」
俺はいつ妊活を始めたんだ。
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