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「なんで…ていうかいつからだよ」
「いつから?…んーとねえ、引っ越したでしょ?ちょうど渥がαだって分かって、同じタイミングで父さんも代表取締の就任が決まって、本社行きが決まってさ」
代表取締。要は社長ってことだろ?今日訪れた馬鹿でかいビルが本社ということならば、親父さんは最初支社か何かの責任者を任されていたということだろうか。どうしても政略結婚の二文字が頭を過 る。
「父さん達が離婚したあと、渥もおかしくなって、それがずっと続いてね?…桐根入ってからかも。あそこヤバイ奴ばっかだし、いつも傍に居てくれたリクは居ないし、なんかつらかったんだよねえ…」
話せば話すほど弱々しく、か細くなっていく声に、抱え込まれた腕で有紀の手を掴む。シーツの擦れる音がして、有紀が顔を上げた。
「リク…俺、寂しかったの」
――…胸が痛い。
そこにはいつもの有紀の姿は無く、昔の泣き虫だった有紀が居るようだった。小さな頃の幼い顔が重なり、庇護欲が掻き立てられる。
「有紀…」
「やっぱり汚い?誰とでもできるなんて。リクは最低だと思う?気持ち悪い?」
「そんなことない」
「でもリクは嫌いでしょ?そういうことしてるの。渥にも言われた」
「…場合によるだろ。お前のは仕方ないよ」
何が正しくて何が悪いのか。たまに分からなくなる。世間の常識に当て嵌めて小言を言おうとしていた自分が恥ずかしくなった。事情があるなんて思いもしなかった。
「…というか俺にどう思われるかなんて関係無いだろ。その、セックス、依存症については詳しく無いけど…何かに依存するって依存する事で自分を守ってるんじゃないのか?」
「自分を守る…?」
「んー、難しいけど依存したくてしてるわけじゃないんだし…そんなに自分を悪く言うな」
頭を撫でてやりたいが、自由な左手は有紀に捕まっていて動けない。
「……ただ弱いだけだよ」
小さく呟く声が聞こえて捕まっていた左手が口元に運ばれた。何をするのかと思えば中指をパクリと咥えて、ガリッという感触ののち痛みが走る。
「いっ…」
「…駄目だ、したくなってきた」
「!?」
歯を立てられたと気付くと同時に力強く手首を握り締められる。血管が止まるくらい掴まれて思わず眉を寄せた。
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