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06
「安成さん、それは…」
「ねえ!ちょっと…外見て!外!」
桃哉くんが何か言おうとした声と重なるように、突然後ろから女の人の声が飛び込んで来た。興奮を隠しもしないトーンに自然と聞き耳をたてるように意識が後ろに向く。
「えーなになに~?」
「あそこ!いるでしょ?誰かずっとこっち見てるなーて思ったらすっごいイケメン…!あそこの、分かる?」
「どれ…あ!?マジっ…やだ、なにあの人」
「制服着てるし高校生かな…?かなり大人っぽいけど、あたしすごいタイプ〜」
「ワイルド系だよね。でも、なんかちょっと怖い顔してない…?」
「不良イケメンってやつでしょ!あたしは萌えるわ~」
確か後ろの席に座っていたのは大学生っぽい女の人達だ。そんな彼女達の会話を聞いてしまって気にならない訳もなく、つられるように窓の外に目をやると見覚えのある金髪と制服姿が目に入った。
「…えっ…春さん…!?」
お店の外の道路を挟んだ向こう側。
少し距離はあるけど、あの立ち姿と背格好はどこからどう見ても春さんだ。
その春さんが俺にはあまり見せることのない怖い顔をして向こう側に立っている。
俺が呟くのと同時に、テーブルの向こうから「げ」と桃哉くんの声が聞こえた。
「ヤッバ!ほら!言ったじゃないですか。約束通り殴られてくださいよ。嘘付いたらハリセンボン飲ませた後に、ミクたんグッズ没収しますからね。大丈夫!救急車は呼んであげます」
「ええ!?」
そこまでヤバイの!?と、タンカーで運ばれるのを想像して思わず顔が青冷める。
でも春さんは窓ガラスの向こうの離れた場所からただジッとこちらを見ていたかと思うと――ふい、と顔を逸らして違う方向へと歩き出した。
「……あれ?来ない?」
桃哉くんが不思議そうな顔をして呟くが、俺は顔を逸らされる寸前。
春さんの表情が曇ったのを見て言葉にならないほどの焦燥感に襲われた。
もちろん、距離も近くはないし俺の見間違いかもしれない。
だけど、見間違いじゃないかもしれない。
「値段っ、分かんないからこれで払っといて!」
バッと財布を取り出し、桃哉くんの前に置く。財布と俺を交互に見ながら桃哉くんが柄にもなく少し慌てたような声を上げて、手首を掴まれた。
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