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「は!?待てって!……行く気じゃないですよね?やめといた方がいいです。兄貴結構ヤバイ顔してましたよ。俺のこと殴った時みたいな…行ったら何されるか分かんないし、安成さんビビリって言ってたじゃん。怖いならここにいなよ」 必死に止めてくれる桃哉くん。確かに自分がどうしようもないビビりでチキンなことは話したし、当たり前だが自覚だってしてる。 いつもと雰囲気の違った春さんに、ほんの少しでも怯えの気持ちがないと言えば嘘になる。 でも、 「…行かなきゃ」 「ッ、分かった!後が怖いなら俺が何とかする!いくらなんでも兄弟だし、兄貴もそこまで酷いことして来ないと思うし…だから」 「ごめん!桃哉くん、行かなきゃ、じゃない。俺…行きたいんだ。春さんのあんな顔見ちゃったら……ごめん!」 「安成さん!!」 パッと腕を引き抜きカバンを持って店を飛び出る。 昼間は暖かいのに夜は冬を連想させるかのように肌寒い。そんな中、俺は春さんの派手な金髪を追って、薄暗い道を駆け出した。 「……いや、嘘だろ。財布置いてくって。信用し過ぎ……そんだけ兄貴のことしか見えてないってこと?…………ああ、もうホント俺ってこんなんばっかだな」 だから1人になった桃哉くんが、ほんの少し寂しそうにそんなことを呟き、「修羅場?修羅場よね?三角関係の修羅場よ。た、滾るわ~…」なんてお姉様方のオカズになっていたことを、俺は知らない。 ーーー 「待っ、て!っ…待って春さん!!」 すぐに飛び出してきたからか、春さんの姿はすぐに見つけることができた。人気の少ない路地で街頭に照らされる金髪がキラキラと輝く。それをめがけて俺は飛び付くように後ろから抱きついた。 抱きついてから、自分から抱き締めたの初めてだ、なんて他人事のように気付く。 俺の突進みたいな激突に前のめりになることなく、その体で支えてくれた春さんは足を止めた。 「あ、のっ…」 急いで走ってきたからか息が切れて呼吸がなかなか整わない。喋りたいのに上手く喋れない(じれ)ったさにぎゅうう、とお腹に回した腕に力を込めた。

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