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しがみつく腕を春さんは外すこともなく、触れるでもなく、ただジッと見ているようだった。 「誤解、しないでね!…桃哉くんとはたまたま本屋で会って、話聞いてもらってただけだから!」 誤解してるかどうかも分からないし、違ったらかなり恥ずかしいが今までの春さんを思うとなんとなく誤解してるんじゃないのかと思ったのだ。 俺の言葉にピクリと反応したが、こちらを振り向く気はないようで動かない。 「………春さん…怒ってる、?」 不安になり、後ろから見上げて声をかける。 見慣れた金髪が静かに揺れた。 「……なに、話してた?」 ようやく口を開いてくれたかと思ったら聞こえてきたのは、驚くほどに低い声。普段から低い声質ではあるがそれよりも数段低く落とされ、掠れた声に目を見開く。 「なに、って…」 約束の1ヶ月が経ったのに何故春さんは手を出して来ないのか、についてだなんて言えるわけがない… 口籠る俺に春さんの手が俺の腕にそっと触れた。 「俺には、言えないこと?」 「……そうじゃないけど…」 そう。言えなくはないが、羞恥心から出来れば言いたくない。 でも俺が言わないことで春さんをこんな風にさせてるんだったら言った方がいいんだろうか…「お前じゃ反応しない」なんて返答されたらどうしたらいいのか分からないけど…ええい!もうどうにでもなれ! 「春さん…あの!実は」 「お前もあいつを選ぶの?」 突然ギリ、と触れていた指に、後ろから回していた手首を予想外に強く握り込まれた。 「!?…あっ、…つ」 「…なんで?なんで俺じゃ駄目?………俺が黒髪じゃないから……?」 「…え…え?黒髪…?」 「ちゃんと制服着たらいい?不良やめたら俺のこと見てくれんの?お前が望むならサキ達とも縁切るし、チームも抜ける。もっと安成を怖がらせねえように気を付けて喋るし、素行も改める。もう嫉妬もしないし束縛もしない。他にどうしたらいい?ねえ。安成。……ねえ」 「()……春さっ、ん!」 掴まれた手首を前にグイッと引かれ、体が春さんの横をすり抜けて体の前に引っ張られた。 「どうしたらお前は俺のこと好きになってくれんの…?俺の、なにが…駄目?」

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