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「あーもうどうしてくれるんですか。そんなどうでもいい悩みのために連れて来られて、こんなとこ兄貴に見られたらまた何言われるか。いざという時は俺を庇って、代わりに殴られるって約束してくださいね。はい、小指」 「い、嫌です…」 「早く早く」 「……はい」 指切りげんまんを交わし、桃哉くんは満足そうにパフェにスプーンを伸ばす。食べる姿は今日も幸せそうだ。 「で?具体的にはどういう風に悩んでるんです?」 「…また女々しいって言われるかもだけどさぁ…元カノの変わりに付き合ったはいいけど、やっぱり俺相手じゃやる気も起きないってことなのかな…とか思っちゃって」 キスもされなくなったってことは飽きられたってことなのかと思ったが、相変わらず俺に甘えた態度を取ってくるし登下校は一緒。ただ、約束の1ヶ月のことはこれっぽっちも話題に出さない。 「はい、女々しい!これで満足?」 ビシッとスプーンで、指差されガクッと首が前に倒れる。満足なわけないじゃないか。扱いが酷いよ!桃哉くん! そりゃ他人の恋愛なんてどうでもいいだろうけど、もう少しだけそのどうでもいい気持ちを隠してほしい。 「…だからさあ、そんな顔しないでください。バナナ好きですか?」 「…すきです」 「………」 俺の返事に何を思ったのか後ろ頭をかきながら、前と同じようにバナナとアイスを掬ったスプーンが目の前に。 「そんなに不安なら俺に相談する前に、直接兄貴に聞けばいいじゃないですか」 「聞くって…なんて聞けばいいの?」 またこのまま食べろってことだろうなと思い、スプーンを咥える。バナナの甘ったるい糖分が口の中で蕩けた。 「俺とセックスする気あるの?って」 桃哉くんのストレートな言葉選びに、吐き出しそうになるアイスを堪えて飲み込む。 多分いま顔真っ赤だ。 「そっ、そんなこと聞けるわけ…!ないだろ!」 「どうして?付き合ってるんでしょ?そもそも言いたいことも言えずに悶々してるなんてそんなのストレスなだけじゃん。お互いの為によくないですよ」 濃厚そうなチョコレートがトロリとかかったバナナを掬い上げ口に含む桃哉くん。そのあと同じようなバナナの乗ったスプーンがもう一度目の前に伸びてきた。 今日は随分くれるな。機嫌いいのかな。まあ貰えるなら貰っとこ。 チョコレートの甘さとバナナの甘さを噛み締めながら、俺の口から抜いたスプーンで美味しそうにパフェを食べる桃哉くんを見つめる。 お互いの為か。 確かにそれはそうかもしれない。 「桃哉くん相手にならわりとなんでも言える気がするんだけどなあ、俺。……同じ顔なのに春さんだとどうして何も言えなくなるんだろ…」 俺の言葉に桃哉くんが顔を上げて、その瞳が微かに揺れる、 気がした。

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