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「ヒッ……お、俺、男です、よ?狩吉さんと同じの付いてます…!」
「知ってる。女には見えないから」
「じゃ、じゃあなんで…?」
「ひとめぼれ」
そういえばさっきもそう言ったっけ。本当にお米の品種であればどんなに良かったことか。
「俺っ、見ての通りめちゃくちゃ普通だし、メガネもかけてないからよくあるメガネ外したら実は美形でしたーなんてフラグも立てられないですし…」
「フラグ?よく分かんないけど大丈夫。ねえ、返事は?」
「うっ、…あ、え~と…」
狩吉さんの力強い双眸が俺を射る。
視線に縛り付けられ、文字通り動けなくなる。
号泣レベルで泣きそうだった。
そもそも同性と分かっていながら俺に交際を申し込むということは、狩吉さんがバイセクシャルという話は本当だったのか。
俺の通う高校が男子校なのもあって男同士の恋愛に俺自身偏見は持っていない。クラスメイトにも何人か公然と付き合っている人たちもいるしそういうのもアリだと思ってる。俺も格好いい先輩とすれ違ったらドキッとして目で追っちゃう時もあった。
だけど、狩吉さんは無い。
絶対にあり得ない。
もちろん俺がどうのこうのと言えるレベルでは無いことは100も承知だ。狩吉さんは見た目は怖いが、それは顔が整っているからでもあって本当はかなりの男前なのだ。厳つさと恐怖が先行してしまって今は怖いとしか思えないが…
そう、怖いんだ。
なんでよりによって俺の中の怖い人部門、やばい人部門、できれば一生お近付きになりたくない人部門総なめの狩吉さんなんだろう。
「安成、返事する気、ある?」
いつの間にか考え込んでしまっていたようで、黙り込む俺に狩吉さんの眉間に皺が刻み込まれる。………終わった…
「付き合ってくれるよね?まさか…」
握られていた指先に少しだけ痛いくらいの圧が加わる。
「断るなんて…言わないよなァ?」
それまでどちらかというと柔らかい物腰だった狩吉さんの語尾に不穏な空気を感じ、俺のチキンハートがそれはもう勢いよく何かの両手で揺さぶられた。
「こっ、断るわけないです!ぜひ!よ、よよ、よろしくお願いします!!」
気付いた時には時すでに遅し。
俺の口からはとんでもない台詞が今日一の声量で飛び出していた。
俺の返事に満足したのか寄せられていた眉間が和いでいく。それだけは俺を安堵させた。
そして狩吉さんは凶悪だけど端整な顔を綻ばせ、桜の花びらが舞うなか静かに笑った。
まるで幻想的なその一瞬に俺は無意識に目を奪われる。
俺はこの時この顔を見て、思った。
そして気付いたのだ。
――狩吉春は笑うのだ、と。
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