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「えぇぇぇえ~ッ!?」
「しぃ!しぃ!きょ、叶…っ声がデカい!」
俺はカミングアウトした瞬間に叫び出す友人の口を両手で塞ぎ、ふがふが言うのを聞きながら静かにしてろよと念を押し、そっと手を離した。
「ぷはあ!ねえ!どういうこと?安成、あの狩吉と付き合うの?」
「…もう付き合ってるんだよ、不本意ながら…」
「でっ、えぇ、えええええええ~ッ!?」
「わっ、だから、声デカイって!」
再び口を塞いでやろうと手を伸ばしたが、今度はスルリと腕の間を抜けて逃げられてしまった。
「もうちょっと叫ばせて!」
「充分叫んだだろ!本当っ、静かにしてくれ…!」
「ちぇー」
ちぇー、てなんだ。
他人事だと思って面白がってるだろ!俺はこんなにも真剣に悩んでるのに。
俺は今、高校から新しく友人となった山咲 叶 に昨日起こった人生最大の大事件を事細かに説明しているところだった。
叶とは高校からの付き合いではあるが、これがなかなか気の合う友人で、今一番仲の良い大事な奴だ。だから、叶にだけは話しておこうと思い、事の顛末を話していたのに、こいつときたら本気で話を聞く気があるのか不安になる。
俺にはただ単に叫びたいだけのような気がしてならない。
「狩吉ってほんとに男もイケる人だったんだ」
「そう…みたいだな。でも男との噂はあんま聞いた事ないけど…」
「確かに。基本女の子とのヤバイ噂ばっかだったもんね。てかなーんだ、狩吉も俺と同じか」
「………」
俺、その事実初めて聞いたんだけど。
友人の流れるようなカミングアウトに俺はそのまま流してしまうことにした。
「………はぁ…もう、どうしよ」
「まさかよりによってビビリでチキンな安成に白羽の矢が立つとはね」
「だよな…。俺、男と付き合ったことはないけど、そこはまぁ別に…いいんだよ。多分。抵抗は無い。でも…あの狩吉さんっていうのがなあ…」
机の上で頭を抱える俺に対して叶は、でもさ、と言った。
「でもさ、俺、ちょっと安成が羨ましいかも」
「はぁ…?」
先程のカミングアウトといい、もしかして狩吉さんのこと好きだったのか?と訝しんでいると、そんな俺の思考回路を察したのか叶が男にしては可愛らしい顔を思いっきり歪めた。
「言っとくけど、好きとかじゃないよ。俺彼女いるし」
「あ」
そういえばそうだった。こんな可愛い顔をして叶はれっきとした彼女持ち。つい数週間前からお付き合いが始まったらしく、相手は県内では有名なお嬢様学校の生徒のようで叶はもうデレデレだ。その所為で最近あんまり一緒に帰ってくれなくなったし、俺は少し寂しい。
叶は彼女持ちで狩吉さんのことが好きなわけじゃない。じゃあなんで俺のことが羨ましいんだ。どちらかと言うと羨ましいのはお前じゃないか。
「だってあの狩吉だよ?安成が怖すぎて同い年なのにさん付けしちゃうようなスゲー人だよ?」
「…それ今言う必要あった?」
俺のジト目付きの言葉を無視して叶が続ける。
「狩吉なんかがバックについてたら、こんな学校やりたい放題できるじゃん。教師だってビビって手が出せないんだし」
「そりゃ…そうかもしんないけど、別に俺やりたい放題したいわけじゃないし…どちらかというと影に潜んでひっそり生きていたい。そもそも、そのバックについてる人が怖いんだって」
「そんなの毎日一緒に居たら慣れるよ!」
「毎日!?」
恐怖の帝王狩吉さんと毎日一緒に居るなんて考えられない。そんなの俺のチキンハートがいくらあっても足りないよ!
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