日々怯えて生きていく想像に、目の前でブルブル震え出した俺を見て叶が呆れ顔で呟いた。 「あのねぇ…いくら狩吉だからって、恋人殴んないでしょ。さすがに自分の女DVしてるなんて聞いたこと無いし……あ、でも」 「でも….！？でも何？」 「…もし安成からごめんなさいしちゃったら、その腹いせに一発くらいは食らっちゃうかもね」 「！！！」 いじわるをしている男の子みたいにニヤつきながらそんなことを言われて俺はもはや我慢できず目元に涙が浮かぶ。 どうしても別れたいなら一発くらい我慢しなよ、なんて言ってくるけど一発も二発も痛いのは絶対に嫌だし、もやしみたいな俺だぞ？一発食らっただけで、最悪あの世行きになっちゃうかもしれない。 「お、俺……………決めた」 「え？食らう覚悟できたの？」 「違う！俺からは絶対に余計な事言わないって決めたんだ！…ビビリしか特徴のない俺なんかきっとすぐに飽きられるだろうし…狩吉さんが飽きるのを待つよ」 「なるほどそっちか！安成らしい発想だね！そして、気持ちいいまでに自虐的！」 「…うるさい」 とりあえず今後の方向性が決まったところで、ふと周りが嫌に静かな事に気付いた。 先程まで皆んな好き勝手にわいわいとしていたはずなのに。廊下の方を見ると一様に一点を見つめていたり、分かりやすく目を逸らしていたり…何度もそういった場面に出くわしたことのある俺は目の前の叶の腕を力強く握る。 「叶！か、狩吉さんが、来る…！」 「言われなくても分かってるよ。相変わらず静かなのに派手というか、すぐ分かるよね」 俺に腕を掴まれたまま呑気にそんな事を言うので、たまらずそのままガクガクと揺さぶった。 「そそそそんな悠長なこといってる場合じゃないだろ！？俺、どうしたら…！？逃げてもいい？」 「わざわざ狩吉がここまで足を運んでるってのに？へー、安成くんは随分と強気になったもんだね」 「！！」 言われてみればそうだ。そんな事できるわけがない。 「なんかっ、なんかアドバイス無いの…？」 多分今かなり情けない顔をしていると思うが気にしてられず叶を見つめると、叶はニカッと美少女アイドル顔負けの笑顔で笑いかけてくれた。 あぁ、やはり持つべきものは頼りになる友達だ… 「そんなの決まってるじゃない！恋人が来るんだから笑顔で迎えるしかないよね！ほら、笑顔作って、笑顔」 全然頼りにならなかった。