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忘れてました、その存在

あの様々な意味でドキドキな体験をした日から1週間と数日後。事の始まりはこの担任の一言から始まった。 「明日からテスト1週間前だぞー。お前ら3年になったんだから、気合い入れていけよ」 そう言ってテストのある科目の日程表を配り、担任は教室から何だか楽しそうに出て行った。 「わっ、忘れてたーーー!!!」 もちろんお前も忘れてたよな、という期待を込めて前の席でこちらを振り返る叶を見るとアイドルがテレビの中でするような完成されたニッコリ笑顔。 「俺が忘れる訳ないじゃん。しっかり準備してるよーん」 「うぬおお裏切り者ぉ…!なんで言ってくれなかったんだよー!」 「だぁってえ~、安成は狩吉のことで頭いっぱいだったみたいだしぃ?」 ちなみに狩吉さんとはあれから特に進展はない。約束を守ってエロいことはしてこないし、進展があったことと言えば俺が狩吉さんに対して敬語じゃなくなったことくらいだろうか。 それでも狩吉さんと喋るときについドモってしまうのは変わらない。 「あっ、頭いっぱいとか言うな!そんなんじゃないし…茶化すなよ叶のバカ!」 「やめてよ。安成にバカって言われるとこの世の終わりな気がする」 「………」 そこまで本気で嫌がられると、さすがのチキンハートもブロークンハート真っしぐらだ。 ちなみに名誉の為に言っておくが俺はバカじゃない。バカじゃないけど、頭がいい訳でもない。 いつもクラスの平均点辺りをウロウロするような点数を取っていて、赤点は一度も取ったことはない。 だけどそれはテスト前に徹夜する勢いで必死こいてテスト勉強をした努力の結果であって「俺、勉強しなくたって余裕だよ。昨日?すぐに寝たけど?」なんて人間では無いのだ。 「中間テスト………1週間で間に合うかな…」 「さあね。今回の範囲全体的にかなり広いし。まあ俺は1週間もあれば余裕だけど」 「うわーん!…また俺の勉強尽くしの1週間が始まる…」 「安成ってだいたい毎回テスト前になったら焦ってるよね。テストが来るのは分かってるのに、なんで勉強しないの?」 自業自得だよね、と頭を抱える俺の肩を叩いて良い笑顔を浮かべる友人をこんなにもウザいと思ったことが未だかつてあっただろうか。いやない。反語。あ、俺今ならこれ確実に点数取れる気がする。

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