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03
そう、狩吉さんは校内で堂々と煙草を吸っていたのだ。
まさか、こんな人のよく通りそうな場所で吸ってるとは思わずビックリしてしまった。
本当なら未成年は吸うな、とか言わないといけなんだろうが俺にそんな勇気はない。
でもいくらなんでもこんなとこで吸うか?普通。もっとトイレの中とか校舎裏とか…あとは屋上?思い付く限りの溜まり場はそれくらいだが、そういう一応先生の目につかないところで吸ったりするものなのでは…
「バレるよ。でも誰もなんも言ってこないし、いいのかなって」
いや、良くないだろ。…でもそうか。教師も怖いのか、あるいは触らぬ神に祟りなし精神で何も言わないんだろうな。教師も人間だもんな、怖いものは怖いさ。分かるよ。でも職務怠慢だ!!
複雑な顔をしている俺に気付いたのか狩吉さんは煙草を消してスクッと立ち上がると傍に近寄ってくる。
「安成は煙草きらい?」
「煙草?………う、う~ん…吸ったことないから何とも言えないけど……でも、匂いは…少し苦手、かな」
「そっか。…じゃあ、やめる」
「へ」
やめる?やめるって何をやめるんだ。
もしや、俺と付き合うことをか?
「煙草やーめた」
狩吉さんは軽い調子でそう言うとポケットに入れていた煙草の箱を近くにあったゴミ箱にグシャリと投げ捨てた。
なんだ、煙草の方か。
――て、なんだって!?
「えっ!?な、なんで…?」
「安成、におい駄目なんでしょ?だからやめる」
「そんなっ……俺なんか気にしなくていいよ…!それに煙草やめるのって、大変…なんだよね?」
「ん。だけど別にいい」
「うえ、…えぇ、ぇ…」
逆に恐れ多くてやめないで欲しくなるんですけど!
健康第一!未成年喫煙禁止!わかってる。でもなあ…なんかなあ…
「……無理、しなくて、いいんだよ…?」
「やめる。無理してるわけじゃない」
「そ、そっか…」
スパッと提案を切り捨てられる。どうやら意思は固いようだ。それならこれ以上グダグダ言って逆に怒られても嫌なのでもう言うのはやめよう。
狩吉さんがやめると言うのならそれに越したことはない。走って息が切れなくなるなんて素晴らしいじゃないか。肺が黒ずむことがなくなるなんて最高だ。いちいち余計なことを考えるのはやめよう。
「…そ、れじゃあ、俺もう行く、から!また明日…!」
従順とも言える狩吉さんの対応にドギマギしてきた俺は、逃げるように歩き出した。
「どこ行くの?帰ろうよ」
だけど何故か狩吉さんは俺の後についてきた。
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