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「………ふぅ」 時計を見ると勉強を始めてから約1時間が経過していた。 とりあえず、テスト範囲がどこからどこまでなのか把握することができ、一旦蛍光ペンを置く。付箋をいそいそと筆箱に閉まいながら、眠る体制に入ってからピクリとも動かない狩吉さんをチラリと伺うと、顔をこちらに向けたまま眠っていて染め上げられた金髪が顔に掛かっている。 ――綺麗な顔だよなあ… じっくり見つめるなんてなかなか出来ないからここぞとばかりに観察してみるが、隅から隅まで見ても不出来なところが見つからない。ニキビの1つでもできていたらと思うのに、それさえも見つからなかった。 これが本当に思春期真っ只中の男子の肌なのか。 しっかり閉じられた瞼に、よく見ると睫毛も長い。俺の妹より断然長い。なんて羨ましんだ。 「………」 なんとなく、無意識で、俺はさらりと顔にかかる髪の毛に触れていた。 狩吉さんの髪の毛、ワックスでもっとガチガチなのかと思ったけど、意外と柔らかいんだな。脱色してるだろうに、思ったより傷んでないし。 「…………、………は…る……」 眉間に皺の寄っていない無防備な寝顔を見ていたからか、俺の心にほんのり温かい感情が広がる。いつもは狩吉さんとしか呼んでいないが、寝てるのをいいことに下の名前を口に出してみた。 狩吉さんと付き合う前は、春だなんて名前、よりによってこんな怖い人がつけてるとはなんのギャグだろう…とよく思っていたけど、彼と出会って約1週間。 噂で聞くような凶暴で血も涙もないような姿は無く、目の前で眠る彼は大人しく優しげで、ふわりと笑う笑顔には癒されたりもする。 そんな姿が、俺の好きな季節でもある「春」という名前にぴったりだと思うようになっていた。 もっと怒鳴ったり、手が出たり、汚い言葉を使う人なのかと思っていたのにそんなこと一切ない。 使う言葉は単調で多くは語らない。どちらかというと短い言葉の中で全てを終わらせてしまう。 彼への印象がどんどん良くなってきているのはビビリの俺からしたら当然のことでもあった。 怖いものは嫌い。 でも優しいものは大好きだ。

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