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06
俺の肩から頭を離し、上目遣いで俺の顔を覗き込む春さん。
恐怖の帝王狩吉春から「ごめん」なんていう謝罪の言葉が躊躇なく飛び出たことに今日で世界が終わるんじゃないかと思う程の驚きと、まるで俺の機嫌を伺うような問いかけと表情に、2度驚いた。
もし仮に、本当に春さんが俺に対して嫉妬しているとしても極端な話、俺以外のヤツのこと考えてんじゃねぇ!と一言怒鳴れば済む話なのに。
俺が言い返す訳ないし、ましてや怒るなんてあり得ない。
それなのに……
「…全然、怒ってないよ」
「勉強も、邪魔してごめんね?」
「ううん、大丈夫…」
「よかった」
こつんと額が触れ合う。
またキスしてくるのかな、なんて思ったのに春さんはそれだけで何もせずパッと俺から離れた。
………なんだ。
キス、しないのか…
――あ
「勉強、頑張って」
春さんはまたベッドに戻り今度はこちら側を向いて寝る体勢に入ったが、俺は自分の思考回路に軽くパニックを起こしそうになっていた。
…キスしないのか…だと?
待って。少し落ち着いて考えよう。
俺、もしかして残念がってた…?
今間違いなく、春さんにキスされるの期待してたよね!?
嘘嘘マジかよ!え!?
どういうこと…!!?
「~~~っ!」
熱くなる顔面に、変な汗が出てくる。
落ち着いて考えようと言い聞かせた癖に、全くもって全然落ち着けていない。
自分の心の変化について行けずせっかく春さんが与えてくれた勉強タイムだったのに、それから暫く集中できなかった。
ーーー
ようやく心が落ち着きを取り戻し勉強に集中できるようになったころ、扉の向こう側からガチャンという玄関の開く音がして顔を上げた。
春さんのご両親はだいたいいつも19時~20時の間に帰ってくると言っていたので、ヤンキーパパではないだろう。
ということは、だ。
きっとこの音はヤンキーブラザーのご帰還…!
同時に襲い掛かる後悔の渦。
――なんで俺さっさとトイレ行っとかなかったんだろう。
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