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「あなた男ですよね?」 「え……うん、どう見ても…」 「ですよね。いえ、分かってましたけど確認で」 「はあ…」 「でも、兄貴の友達じゃないでしょ。恋人?それともセフレ?友達にしては毛色が違い過ぎますよね」 ズバッと当てられて、思わずウッと言葉に詰まった。やはり見るからに不良じゃない一般ピーポーカースト下位感は丸分かりだったか。 「セ、フレではないです…」 とりあえず違う部分だけは否定する。 というか、そもそもそういう行為をしてないから淫らなフレンドではないはずだ。 「じゃあ恋人だ。……兄貴、ほんとこういうの好きだよなあ」 ボソリと呟いた弟くんは、スルリと耳元に顔を寄せてきた。 そしてすぐ側で春さんの出す低い声と似た低音が響き、思わずドキッとしてしまった俺の肩に、そっと手が触れる。 「あの人、あなたが思ってる以上にヤバイと思う。早めに手を引いた方がいいんじゃないかな。でないと壊されちゃいますよ?」 フッと息が耳に掛かってゾワリとした。 「あの子みたいにね」 驚いて弟くんの方へ顔を向け、お互いの視線が至近距離で交わった次の瞬間。 弟くん越しに乱暴に扉が開くのが見えて、最近ようやく聞き慣れはじめた人物の声が届いた。 「桃哉(とうや)…てめぇ何やってんだ」 とうや、と呼ばれた弟くんはサッと俺から身を離すとゆっくり後ろを振り返る。 「何もしてないよ、兄貴。トイレでばったり出くわしちゃったから挨拶をね。もう俺は戻るよ。ミクたんのアニメ始まっちゃうし」 やっぱり猛獣使い☆ミクたんのファンなんだね!俺もミクたん好きなんだよ!あの可愛い見た目で猛獣を平伏させるのが堪らないんだよね。あっ、てかリアタイで見る派なんだ?俺はCM飛ばしたいから録画して見る派なんだよね~ と熱く語りたいが、そんな空気では無いのは百も承知。 「じゃあ、恋人さん。気をつけてくださいね」 俺から離れた弟、桃哉くんは去り際に内緒話のように一言言うと、怖い顔をしている春さんの横を器用にすり抜けて再び自室に引っ込んでしまった。 春さんは洗面台の前で呆然としている俺の前に来て両手を握り締めてくる。 「大丈夫?変なことされてない?」 「あ、全然……何も!大丈夫だよ…!」 「安成……」 そのままギューと抱き締められた。 「お願いだから俺以外を近寄らせないで。つーか、どっか行くなら言って」 「…ご、めん……春さん、寝てたから…」 「起こせばいいだろ。…そんなんでいちいち怒んないから」 「……ごめんなさい」 「安成」 痛いくらいに強く抱き締められて、何故か胸まで締め付けられた。 なんとも言い難い感情が溢れ出す。 「触れていいのは、俺だけだ」 この会話、もしかして桃哉くんに聞こえてるんじゃないかとも思ったけど、早まる鼓動がうるさすぎてどうにかなりそうでそれどころじゃなかった。 『壊されちゃいますよ?あの子みたいにね』 春さんの腕の中で桃哉くんの言っていた言葉を反覆する。 壊されるってどういうことだろう。 それにあの子って、 ――だれのこと?

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