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「さあな。詳しくは聞けなかった。別れた直後は超荒れてたし。なんせ、あの春が振られたっつー話だからな」 振られた? …春さんが? 春さんを振るなんて相当の強者だ。当初俺の計画では殴られるのが怖くて、春さんから振ってもらうのを期待していた程だと言うのに。 ドクドクと心臓が血液を全身に送る音が聞こえる。早い鼓動は大袈裟な程強く感じるのに、指先は氷のように冷たく、知らぬうちにギュッと握り締める。 「噂じゃ、相手のオンナ孕ませちまったからとか二股かけられてたとか流れてたけど…真相は知らねーな。仲花クン聞いてみたら?」 早妃くんがそれはもう嬉しそうに笑う。しっかり目まで笑ってるけど違和感しか覚えない笑顔。 だって尊敬する人が恋人に振られたことを普通喜ぶ?もし叶が今の彼女に振られでもしたらきっと俺も凄い悲しいし、ショックで荒れてたんならこんないい奴を振るなんてその子は見る目が無いな、と腹を立てているかも知れない。 だから、間違っても喜ぶなんてことはしない。 でも、早妃くんは笑ってる。 …それってどう考えても、春さんとその子が別れて嬉しいってことだよな。 「仲花クン、あんなスゲー人に愛されて、良かったネ?」 早妃くんがワックスで遊ばせた明るい前髪を指で弄りながら、目だけをこちらに向けてくる。 なにが“良かった”んだろう。 思ってもない癖に。 きっと俺のことも早く別れたらいいと思ってるんだ。お前みたいな普通な奴は似合わない、もっとキレーな子が春には似合うって。 やっぱり、俺、早妃くん苦手。 ……苦手だけど、彼が思うことは当然のことかも知れないなんて思う自分もどこかに居る。 春さんは俺に対して駆け引きなしに優しくてドロドロに甘い。それも角砂糖にハチミツをかけてクリームでコーティングしたような甘さだ。 春さんがそこまでして俺を大切にしてくれる理由は一体なんなんだろう。 春さんに傾く気持ちが大きくなればなるほど、浮かんできた考え。 早妃くんの言う通り、俺はふっつーの奴だ。 どこにでもいそうな顔に、春さんの一挙一動にビビってしまう鬱陶しい性格。モヤシのような線の細さは不健康そうにも見える。 可愛い女の子が出てくるアニメが好きなのに桃哉くんとは違い、周りに堂々と伝えることができない意気地なしの隠れオタクだ。

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