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「まあ、でもそんだけ想われてんだったら浮気とかしたらマジで殺されっかもね。半殺しじゃすまねーかもぉ。ダイジョーブ?仲花クン。春のお相手、ちゃんと1人でできっかな」 ケラケラと笑う声が壁に反響して室内に響いた。 ダイジョーブもなにも俺は春さんにエッチ禁止令を言い渡してる。こんないいところも何もないコミュ障でビビリな男相手に禁欲を強いられて、よくよく考えてみるとホント春さん可哀想。 見た目は確かに怖いけど、普通にしてれば顔はいいし、体付きも男らしく、留年もしないということは頭も然程悪くはないんだろう。有名なチームの頭を張るほど腕っ節もあり、女にも男にもモテモテな人物に無償で想って貰えるほど俺は何かを返せているのだろうか。 ――どうして春さんは俺に好意を寄せてくれるんだ? ヒトメボレって、言ってたけど、さ… こんな俺に、これといった個性も何もない同性の顔に一目惚れなんてするだろうか。 俯きそうになる直前、壁にもたれ掛かる愉悦を含んだ表情と目が合った。 『でも相手がまた、ふっつーのオンナでよー…そういやちょっと仲花クンと雰囲気、似てっかもな』 ――俺がその子に、似てるから? 思い浮かんだ単純な考えに、全てのピースが「パチン」と小さく音を立てて脳内で繋がった。 もしかして俺は、その子の変わり? 「サキ。いい加減安成返せ」 いつの間に現れたのかトイレに顔を覗かせた春さんが早妃くんを睨みながら入ってきた。 「なにって、大切な体内のデトックス的な?はー、スッキリした」 んんん、と伸びをする早妃くんを横目に春さんは手洗い場の前で立ち尽くす俺の傍に寄ると、そっと手を握り「帰ろっか?」と優しく微笑んだ。 早妃くんのものとは180度違う、温かみを感じる笑顔を見た瞬間なんだか泣きそうになってしまった。コクン…と頷くフリをして顔を晒す。春さんはどうしてそんなに優しい笑顔を俺に向けてくれるの? 「えー、もう帰んの?早くね?」 「黙れ、顔見せはもう充分だろ」 「まあ、ちゃんと仲花クンの顔は覚えたし。でもまだチームで話すことあんだけどぉ?」 「また戻ってくる。安成1人じゃ帰らせられないだろ」 「……春さん、俺、大丈夫だよ。1人で、大丈夫だから」 「…駄目だよ、危ない」 俺が口を挟んだ途端、春さんの刺々しい雰囲気が一気に柔らかくなる。喋り方だって俺を怖がらせないように優しく喋ってくれる。

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