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雰囲気が似てるってことは、きっとその子も俺と同じ怖がりなビビリで、春さんはこうやって優しく気遣うように声を掛けていたのかな。
――そうだったら…なんか、やだな。
春さんの優しさが分からない。
俺に対して優しいんだと思ってた。
でも、それって本当に俺への優しさなんだろうか。
俺越しに、
誰かを見てるんじゃないの?
握られた大きな手のひらを初めて自分から離す。春さんは、俺の行動に驚いたように眉根を寄せた。
「本当、大丈夫だから。…1人で帰れるから。じゃあ、春さん、早妃くん、おつかれさま!」
「安成…?」
言うが早いか俺はトイレから抜け出しダッシュで駆け出していた。逃げ足だけには自信がある。
テーブルにいた幹部の人たちにぺこりと頭を下げるだけ下げて自分のカバンを掴み店を出る。
「あれ!どーしたんすか?仲花サン」
「おい、帰んのかよ?春、呼んでんぞ…って、おい!?」
幹部の人たちに混じって、後ろから春さんの呼ぶ声が聞こえたけど、俺は止まらなかった。
止まらず、
走って走って、
走り続けた。
「っ、…は…」
無我夢中で走り続けていると、気付くと自宅の前に立っていて乱れる呼吸に胸が痛い。玄関の前に立ち、何度も深呼吸をする。喉の奥に血の味がした。それでも呼吸を落ち着かせようと肺いっぱいに息を吸い込む。
だけどいつまで経っても心臓は痛いくらいにドキドキしたままだし、足はガクガクと震えて止まらない。
吸い込む空気は少し湿っぽくもしかしたら明日雨が降るのかも、なんて、ぼんやりそう思った。
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