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(第三者視点)
安成が去った後、不良チームsakuraの幹部達の間には底冷えするような空気が漂っていた。
ちなみに余談ではあるが、チーム名であるsakuraの命名は春の前の代のトップが命名した名前だ。不良達の好みそうな格好良い英単語などでは無いそれは、噂によるとトップが当時心底愛していた恋人の名前だとか、はたまた愛犬トイプードルちゃんの名前だったとか。高校を卒業と同時にチームも抜けてしまったので、真相は闇の中である。
「……おい……」
そんなsakuraの現トップである春から、低い低い地を這うような低音が空気を震わせる。
机に座っていた小柄で子犬のような少年が条件反射のように「はいいい!!」と、椅子から転げ落ちるのではないかと思うほど勢い良く立ち上がった。
彼の声にこの店の店主である男が何事かとチラリと眼帯をしていない方の目をやるが、いつものこととでも言うようにすぐに目を逸らしグラスを拭き直す。この店では騒動が日常茶飯事に起こる。店主としては店内が汚れない限り、気にしない。全体的に暗いのでちょっと汚れたくらいでは気付かないというのが本当のところであるが。
ついでに言えば、彼の付ける眼帯にさして意味はない。「これ付けてるとなんだか闇があって、ミステリアスな雰囲気が出る気がする」と後に彼は語った。
「サキぃ…てめえ、なんか安成に言ったな…?」
この雰囲気の中心人物である春の怒りの矛先が自分ではなく、トイレからのんびり出てきた早妃という自分の先輩であったことに子犬のような少年は安堵の息を漏らす。隣に座っていた少年からすると先輩に当たる厳つい男達も無意識に、ホッと肩を撫で下ろした。
彼らにとって春は尊敬できる素晴らしい人物ではあったが、同時に最も恐ろしい相手でもあった。かと言って、彼らも最強を謳うチームの幹部を務めているだけのこともあり、不良同士の喧嘩で怖いと思ったことが無いほど血の気も多く強者揃いだ。
それなのに目の前の無表情で不穏な空気を纏わせる、偉く顔の整った男にだけはどうやっても頭が上がらない。
一つ一つの言葉に慎重にならなければ、下手を踏むと大変なことになりかねないという思いが彼らの根底にある。
そして、今まさにその大変なことが起こりそうになっているのだ。
幹部3人は心の中で同じことを考えたという。
――春(さん)が、キレそう…!!!
「くだらねえこと言ってたら…容赦しねえぞ」
ゆらり、と振り向いた春の鬼神がごとく表情に皆一様に息を飲む。
しかし、怒りの矛先である早妃は気にしたそぶりもなくヒラリと片手を振った。
「なーんも言ってねえよ?ただ世間話してただけ」
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