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クラスは違ったというのに1年の時、早妃の方から春に話し掛け、よく行動を共にするようになった2人はメンバーの中では誰よりも気が合うようで信頼し合っていた。 周りが言いにくいことでも早妃はズバズバと春に発言できる。前トップが居なくなった今、春が暴走した時に止められるのはこの早妃という男だけだと、チームの全員が確信していた。 「なら、なんであんなテンション低かった」 「さあ?そんなの俺、仲花クンじゃねえし分かんねえよ」 さも当たり前の事を告げ、早妃は安成が居なくなった椅子にどっこいしょと呟きながら座る。飄々とした態度の早妃の動きを目だけで追う春。目が合えば殺されるのではないかという程強い視線だ。空気が凍っていた。 今にも殴り掛かりそうな春の雰囲気に、ゴクリと誰とも分からない嚥下音が聞こえる。 「あー、でも」 早妃が机の上に置いていた飲みかけのドリンクに手を掛けながら、楽しそうに笑った。 安成が胡散臭いと評した笑顔に、春がピクリと眉尻を上げる。 「仲花クンに、浮気したら春、怖いよーっつってから暗くなったよーな気もすんなあ」 「………浮気?」 自分の言葉に食いついてきた春に、早妃はえらく嬉しそうに微笑み片肘を机について気怠げに相手を見上げた。 「もしかして、身に覚えあんのかね?…なぁんちゃって、嘘だよ?」 春の脳裏に先程の出来事が蘇る。 帰ろうか、と視線を合わせた後、気まずそうに視線を逸らした安成。ただ頷いただけではないことは気付いていた。 だから家まで送りながら何かあったのかと聞こうと思っていたのだ。 しかし安成は一目散に自分から逃げるように立ち去ってしまった。拒絶とも取れる反応に驚き、その所為で追い掛ける直前の反応が遅れてしまった。 突然立ち去った原因が「浮気を指摘されたから」だとしたら。 と、早妃は言いたいのだろう。 「安成が……浮気…?」 あり得ない。 そうは思うが先程の当て嵌まり過ぎる態度に春は胸をざわつかせる。 「………」 ドロドロした感情が静かに広がる感覚を感じた。 この感情は良くない。 また同じ事を繰り返してしまうかも知れない。 春の脳裏にヒステリックに泣き叫ぶ女の子の顔が浮かぶ。 安成と出会ってからもうすっかり忘れていた相手。だけど教訓として忘れてはいけない相手でもあることを、春はしっかり認識していた。 同じことは繰り返さない。 安成が浮気なんてするわけない。そんな度胸があるとは思えない。きっと大丈夫。早妃の勘違いだ。 自分に言い聞かせるように、溢れ出す黒い渦に――無理矢理蓋をする。駄目だ。これは駄目だ。 まだ大丈夫。 何かを考えるように黙り込む春を見て、早妃はその表情を緩やかに崩した。

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