ただ、外から雨の振る音が聞こえて来るだけ。 春さんはまだ迎えに来ない。もしかしたら雨だし学校来るのが面倒くさくなったのかも。 来てるのかどうか自分から連絡してみるか、確認しに行った方がいいのかもしれないけど、今日はどうしてもそんな気分になれなかった。 「……俺さあ」 いつもならこちらの喋る隙を与えないぐらい喋り出すと止まらない叶なのに、今日に限って何も喋ってくれない。まるで、俺が喋るのを待つかのような姿勢に気付いたら口が動いていた。さすが気遣いのできる男。叶には敵わないな… 「俺、ふっつーだよな」 顔を背けたまま話をするのは駄目だと思い、伏せったまま上目遣い気味に叶を見上げる。見上げた先の可愛い顔はキョトンとしていて、バサバサ睫毛の大きな目を２、３回パチクリと瞬かせた。 「え、何それ。今更じゃない？」 返ってきた言葉はあまりにも気遣いとは程遠い。 只今をもちまして山咲 叶(18)気遣いのできる男の称号を剥奪します。 「…だってさ、メガネ掛けたって春さんならサマになるだろうけど、俺が掛けたらただの陰キャじゃん」 「まあ否定はしないけど、そこまで地味じゃないでしょ」 「俺が思わず買っちゃった着る勇気もない萌えT１枚にしたって、春さんならモデルみたいに格好良く着こなしちゃうんだよ、きっと」 「萌えTなんて狩吉も着ないだろうけどね。ちなみになに買ったの？あれ？獣使い」 「惜しい、猛獣使い。なんだよ獣って。…それにさ、一緒に歩いたところで俺は友達とすら見られなくて、良くてパシリ。悪くて下僕だ」 「パシリも下僕も結局は同じようなもんだと思うんだけど…安成の中ではそういうランク付けがされてるんだ。なるほどなるほど」 「俺、ビビリだしチキンだし…ほんといいとこ無しだよな」 「……うーん？」 「やっぱりどう考えても春さんが俺のこと好きなんておかしいよ」 「………」 「…なあ、叶、お前はどう思…、…っえ！？」 天気に感化されたのかナヨナヨと湿っぽい話を続けていたら、途中から喋らなくなった叶。 やばい！ウザがられた…！と俯き気味だった顔を上げるが、上げた瞬間ギョッとした。